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悪夢

堕ちる.... 僕の意識が、身体が、心が、 闇へ 吸い込まれる 景色は、変わらないけれど、分かる。下へ下へ 落ちていく.... あぁ...ここは、寒くて暗い.. 突然、目の前にテレビ画面のようなものが現れる。 うん...これは知っている...何度も見ている 時折、記憶の中にあるこれらは、這い出てきて 僕を律するのだ。 『決して、調子に乗るな』『お前は、必要ない』と 画面の中の、母親の役割を持つものは、言う 「あら、まだ屋敷に居たの」 いつまでたっても鮮明に覚えている。蔑むように見下すアイラインを鋭く書いた光る目と、リップグロスで気持ち悪いぐらいツヤツヤの唇が表す嫌悪の表情。 画面が写りかわり、父親の役割を持つものが現れる。 いつだっただろうか。小さい僕が、満点の試験用紙を持って、顔を合わせない父親に褒めて貰おうと思って、書斎に行った時だ。 小さい僕は、笑顔満点で、机に向き合っている父親に近づいて机の上に試験用紙をそっと置くが、 途端に、父親が力強く机を手の平で殴る。バンッ 僕は、驚いて部屋から慌てて駆け出ていた。 そうだ、、、 記憶の中の父親の存在はいつも顔が見えない。父親は、僕を視界にいれるのも、嫌みたいで、顔を見るには遠目から見るしかなかったのだ。 ううっ... もう やめて やめ.... 画面は、無情にも次の画面に映る。 見たく無くて聞きたくなくて、目を閉じようにも耳を塞ごうにも、金縛りにあったように動かない。 自分の夢なのに、、、、。 画像の中の僕は、先程見たよりも少し大きくなっていて、使用人達が住む離れの廊下を歩いていた。僕の部屋もあるけれど、スペースが確保されているだけで、安全地帯とは、程遠い。 廊下の後ろから、数人の女人達が歩いてくる。 あっ... と言う前に、1人の女人が僕に体当たりするようにぶつかってくる。筋肉もない僕は、前のめりになって転んだ。 クスクスクスクス....女人達の醜い笑い声が僕の鼓膜を揺らす。 「あら...そういえば、厨房の高級なお椀が割れていたそうよ」 「ああ、、あと、ある使用人の腕が交通事故で失われたそうよ」 「不幸ねぇ...」 「いつから始まったのかしら」 「当主様の愛人がお亡くなりになって災いのもとが産まれたからよ!」 「いつまでいるのかしら」 アハハハハハハ....女人達は、高笑いをしながら仕事へ戻っていった。 画面の中の僕は、転んだまま 腕で自分を包み込んだ。 そんな過去の記憶が、次々に画面に消えることなく再生される。 金縛りのように動かない身体が、やっと動いて 僕は、力なく倒れ込むように座りこんだ。そして、 両手を持ち上げて、冷たい両耳を塞ぐ。 目をそっと閉じる。 瞼にうかんだ のは、陽輝が僕を慰める時に良く見せる暖かく優しい笑顔だった。 はる....ッ。ハル....。 っ!はる! はるーー! 瞼を閉じる力を強めて、陽輝を願う。 しかし、優しい笑顔が一変して、最近時折見せる 冷たい表情に変わった... 陽輝の表情が変わってしまって、悲しくて、苦しくて、つらくて、両耳を包んでいる両手を 両耳ごと 握る。 そして、同時に思った。 もう、僕にはハルしかいない...だから、 僕は 僕は ハルが求めるようにならないと... 気をつかって.... 迷惑にならないように.... それで、もし 今の自分が 無くなってしまっても 傍に、ハルが居れば..... ハルに嫌われ無ければ.. 今までは、ハルの変化に驚いて ハルに甘えて 完全にハルが思う自分になれなかったように思う。 でも、画面に出てきた人々のように、 ぼくを ぼくを ハルも嫌いになってしまうと考えれば、 このこと以上に苦しいことなんてないのだから.....。 ハル.... ハル.... お願いだから、傍にーーーーーー。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「ーーーいっ!」 「れーーーいっ!」 聞きなれた声がぼくを呼ぶ。 重い瞼を上げると、 眩い光に覆われた 探してた 笑顔が見えた。

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