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ジリジリとした暑さが地面を焼いて、吹く風が僅かにある空気中の水分を全て掠め取って行く。空だけは嫌になる程青くて、雲ひとつもない。 それはまた今日も雨が降らない事を如実に現していた。 「あっぢぃ…」 容赦無く照りつける太陽を頭に被ったボロ布でどうにかやり過ごそうとするがそれはただの気休めにしかならない。砂塵を含んだ風が吹き荒び、目も開けていられないような状況もここでは普通だった。 「…ソロ、」 名前を呼ばれて振り返る。そこにいたのは痩せ細った、まるで枯れ枝のような狐の獣人。 「……ダメだった?」 「…ああ」 「…そっか、仕方がねえな…」 「…ああ」 ボロ布で隠れた枯れ枝の老人と同じ薄茶色の耳が垂れ下がる。 こんな別れは、一体何度目だろうか。 「…埋めてやんないとな。どこが良いかな、エルドの丘とか?あいつ花が好きだからさ、あそこなら、ちょっとくらい咲くんじゃねえかな」 水も、食料も無い。 俺がいるこのスラム街では俺たちの命なんて、きっと紙より軽い。 何度経験しても慣れはしないが、それでも涙なんてものはとうの昔に枯れ果ててしまった。 「…あっちいから今日中にやらねえと。ジイちゃん、鍬借りてくな」 カラカラに渇いた地面を踏みながら石で作られた家に入る。所々ヒビが入っていて、お世辞にも綺麗な家だなんて言えない。いつもみんなが寝ている所でぐったりとしている子供を抱き抱えて俺は家を出る。 まだ温かいのに息はしていない。 あと数時間もすれば体も固くなって、この季節だから腐るのも早い。 「マリー、暑かったな。喉も渇いたよなぁ、腹も減ったし、ホント、夏って嫌になるな」 スラム街を抜けて丘をのぼる。 スラム街を含めたこの国が見渡せる場所に眠っているようにしか見えない子供を横たわらせる。口元に耳を近づけて、手を胸に押し付けても返ってくるものは何もない。 けれど、穏やかな顔をしていることがせめてもの救いだった。 「…マリー、次生まれて来るときはちゃんと金持ちの家に生まれろよ。うまいもん腹いっぱい食って、勉強も出来て、お洒落もできる。そんな家に生まれるんだぞ、良いな。…ソロ兄ちゃんとの約束な」 パサつく髪を撫でて鍬を握る。乾き切った土を掘るのは案外重労働で、子供一人寝かせる穴を掘るだけで汗が滝のように吹き出す。涙は出ないのに汗は出るのかと、自分の薄情さ加減に笑いが漏れる。 「…泣いてやれないでごめんな。…おやすみ、マリー」 掘り終えた穴に子供を寝かせて静かに土を被せていく。 渇いた音と俺の息遣いが風の音に掻き消される。どこまでも優しくない世界に、俺は笑う事しか出来なかった。

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