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01ー11
「離せ!おい、離せってば…!!」
「無理無理ぜーったいに無理。この手離したらソロくん逃げるでしょ?ホントあの時めーっちゃびっくりしたんだからね?ボクでも無理だよあそこから飛ぶの。ヴァイスも流石に焦ってたなぁ」
オレンジ色の髪のハイエナの獣人、トレイルに腕を引かれ俺は知らない道を歩かされていた。どれだけ抵抗しても腕が離れることはなく、どこかなよなよとした印象のあるトレイルが実は鍛えられているというのもこの時にわかった。
けれどそんなことを気にしている場合ではなく、俺はただこいつから逃げようと必死だった。だってこいつの体からは微かにアイツの匂いがする。
また嫌な音を立てて早鐘を打ち出す心臓に舌打ちをしたと同時にトレイルの口から出たアイツの名前に肩が大きく跳ねた。
「……この前はごめん。ちゃんと謝りたかったんだ。…君の話も聞かずに無理矢理王宮に来させた挙句、あんな目に合わせて本当に悪かったと思ってる。ヴァイス、…俺の主人に代わって謝るよ。ごめん」
腕は離さないままにこちらを振り向いた男の言動に混乱しない様に呼吸を繰り返しながらなんとか理解しようと言葉を頭に叩き込む。
「…あんたに謝られたってしょうがない。主人ってなんだ。あんたは俺に、王宮で働いてるって言ったよな。それなのになんでアイツが主人になる。…あんたら、なんなんだよ。俺になんの用があるんだ。謝りたいだけなら、んなもんいらねえ。二度と俺の前に現れんな」
本能がアイツの残り香で歓喜の悲鳴を上げる。体が中から二つに割かれていく様な感覚がして、眉間に深く皺を刻んだ。感情の読めない顔で、ただ申し訳なさそうに眉を下げてそういった顔を作っているトレイルをじっと見る。
踏み込んではいけないとわかっていながらも口からは言葉が止まらず、危機感からか内側の不快感からか、知らずに息を上げて汗を流しながら腕を振り解こうとするがやはりそれはできなかった。
「ごめん、どうしたって離せないんだ。君の疑問も怒りも正しい。理解できないよね、」
「…いいから離せよ。謝罪だっていらない、あんたらのことを言いふらす様な真似もしない。あんた達がどこの誰とか、どうでもいいから!、だから、離せ。頼むから、」
「……本当に離していいの?」
それまでぴくりともしなかった腕を掴む力がふと弱まり、思わずトレイルを見上げる。
そこにいたのは初めて会ったときの様な胡散臭い笑みを浮かべているそいつだった。
「ソロくん、体辛いんじゃない?内側から嫌のものがずっと競り上がって来てるんじゃないかな?日を追うごとにそれって辛くなるでしょ?今だって、」
ボクの服についた匂いで狂いそうなんじゃない?
「っ!」
「あは、そんな怖い顔しないでよ。でも図星でしょー?うまく誤魔化してるみたいだけど、長くは保たないよ。そういうものらしいからね」
「、あんた、一体…」
「ボクはね、ちょっと人よりそういうのに詳しい虎の国第三王子ヴァイスの友達兼家臣」
にんまりと、三日月の様に笑いながらトレイルは俺を見る。
「どんな事情であれ、例えそれが事故だって王族と交わったやつを野放しには出来ないんだよ。だから、ごめんね?」
次の瞬間、俺の意識は暗闇に落ちていた。
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