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01ー14

一体全体どうしてこうなった。 「ヴァイス様!?ご無事ですか!」 「窓が割れた。修理は明日でいい、出て行け」 「で、ですがもし賊が入って来たら」 「出て行けと言ったのが聞こえなかったのか。それともお前は俺が賊に遅れを取るとでも?」 「いえ、その様なことは!決して…!」 「なら出て行け。目障りだ」 確かに窓は割れた。割ったのは俺だ。 正確に言うと割らされたのだ。 (「はいここがヴァイスの部屋ね。ベッドでごこんもりしてんのがそうだからさ。挨拶しておいでよ」「は?」「あ、しっかり口閉じてて、ね!!」「は、ーーーーっ!!!」) トレイルの力の限りに投げられた俺はそれは見事にアイツの部屋に入り込んだ。 それはそれは盛大な破壊音と共に。 音に飛び起きたアイツの顔はきっと一生忘れないと思う。俺も相当な顔してたと思うけど。 まあそれでなんでか知らないけど俺は今アイツのベッドの中にいる訳で。隠れられる所がここしか無かったわけじゃない。 無駄に広過ぎる部屋には隠れるところなんて山程あった。なんなら外に逃げてもよかった。 それなのに出来なかったのは、こいつが俺をベッドに引き込んだからだ。 バタン、と扉が閉まる音がして兵士であろう人の気配が消えたところで俺はベッドから慌てて顔を出した。 「っは、はぁっ、…っ、しぬかと、おもった」 「今すぐ殺してやろうか?」 「うっせえクソ野郎。文句があるならトレイルに言え」 鼻を両手で押さえてどうにかあいつの匂いを嗅がない様にしつつベッドの上で俺たちは睨み合った。 「ッハ、随分と口が悪いな。さすが貧乏人」 「なんとでもどうぞ。ったく、訳もわからず連れてこられた被害者は俺だっつの」 初めて見たときの感動は今はもう微塵もない。 ただ見た目が驚く程整っている虎の獣人のクソ野郎だ。鼻を押さえたままベッドから抜け出すと俺は窓枠に足をかけた。 「…おい」 「アンタも俺には会いたくないんだろ?トレイルが言ってた。だから出て行くんだよ」 外は暗く、そしてここは高い。飛び降りれば骨の何本かは折れるだろうが、それでも構わなかった。 匂いを嗅がない様にしていても気配を感じるだけで内側がぐちゃぐちゃに掻き乱される。 知らずに上がった息を悟られない様に俺は必死だった。 「無理無理。そんな易々と逃す訳ないじゃーん」 「!?」 「、トレイル、なんの真似だ」 窓枠に足を掛けてぶら下がる様にようにして現れた俺を投げ込んでくれた張本人を目の前にして驚き過ぎて俺は尻餅をつく。 そこに明らかな苛立ちを含んだ声でアイツが声を掛けるとトレイルはただ口元に弧を描く。 「んー?ヴァイスへのプレゼント。神妙に受け取ってよ」 「ふざけるのも大概にしろ。俺はこんな劣等種に興味はないと、お前に、何度も、言ったよな」 強調する様に告げられる言葉に意思とは関係なく心が悲鳴を上げるのがわかる。 やめて、そんなこと言わないで、と内側から誰かが叫ぶ様でそれが嫌で嫌で、どうしようもなく嫌で俺は自分の首に爪を立てた。 「ソロ君!?」 血の匂いを感じて俺を見たトレイルが驚いた様に駆け寄ってくる。爪をたてる腕を力づくで奪われると俺はただ叫んでいた。 「殺せよ!!もう、頭ん中でずっと嫌な音がする!俺の意思とは関係無く身体がアイツの気配でおかしくなる!こんなの俺じゃない…っ!なあ、アンタも俺が嫌なら殺せよ!あのときみたいに首の骨折って、俺を殺せ!!」 いつの間にか鼻を覆っていた手が外れ、アイツの匂いで満たされた部屋で俺は呼吸をしていた。 瞬間、ドクンと心臓が大きな音をたてる。 「…っ、いやだ、いやだ…っ!」 あの時の様に、身体の熱が一気に上がる。 発情期(ヒート)は終わった筈なのに、その時よりも酷く甘い熱が身体中を駆け巡る。 嫌悪感で吐きそうなのに、そんなのお構いなしに身体が作り替えられていく。 「トレイル、離れろ」 「でも、こんな状態で離したら」 「発情期(ヒート)だ。近過ぎるとβのお前でも喰らうぞ」 腕を掴んでいた手が離されて、俺は一目散に窓へと走る。けれどそれは出来なかった。 「部屋に誰も近付けるな。殺しはしねえ」 「…わかった」 急に強くなった匂いと威圧感に俺の足は竦んでしまった。トレイルが部屋を出る音と、アイツがベッドから降りる音はほぼ同時。 近づいて来る気配が俺には恐怖でしかなかった。 「…こんなものが俺の番だと…?」 低く唸る声に身体の奥から熱が溢れる。 「…脆弱でなにも持たない、こんなそこらの有象無象と変わらない様なスラム街のガキが、この俺の番だと…?」 首に手をかけられて勝手に身体が跳ねる。 それは恐怖からでは無く、そいつに触れられた瞬間走った快感によるものだった。 「……どこまでも馬鹿にしてくれる…!」 苛立ちをぶつける様にあいつは牙を立てた。 俺の頸ではなく、肩に。 それはそいつがどんな事があっても俺を番としては認めない、そう語っている様に思えた。

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