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02ー1
白くて清潔なシーツに、柔らかなベッド。窓から入り込む風に埃なんて混ざってなくて、鼻腔には緑と濡れた土の香りが届いた。
少しだけ花の匂いを混ざっていて、花粉でも乗っていたのか吸い込んだ拍子にくしゃみが出て、それが清潔で豪華な部屋に響いた。
「…花…?」
ゆらゆらと揺れる意識を浮上させて目を開け、最初に見えるのは天蓋というやつだった。
寝姿を見られない為だとか装飾だとか色々と言われたが眠れる場所があるなら土の上でも構わない俺にとってはどうでも良いことだった。
のそりと起き上がり、ベッドに腕をついて全身を伸ばす。
外を見ると白と赤と青が混ざり始めたところで、今がまだ明け方だということがわかった。
ペタ、と磨かれた床にそっと足を下ろして窓に近づくと、そこから見える景色にまだ慣れないなと独りごちる。
「…国が違うと、こんなに違うのか」
もう何度目かわからない呟きは誰に拾われるわけでもなく部屋の中で消えていく。
今でも届く香りの通り、ここはとても豊かな国だった。
王城が豪華なのは当たり前として、そこから見える城下町やさらに先の土地でさえ緑と生き物の気配にあふれていた。日の光に朝露が反射して輝く様は何度見ても綺麗でいつまでも見ていられた。
コンコン、と部屋の扉がノックされる。その音に体をドアのほうに向けると首に嵌められたベルトについた鈴がチリン、と涼しげな音を奏でて俺はその音とは真逆に一気に気分が落ち込んだ。
「…はい」
「やっほーソロ君。気分は、どうかな…?」
控えめな音と共に部屋に入って来た人物はどこか気まずそうに俺を見ていた。
「もう平気だって言ってるだろ。あんなんじゃ死なない」
「…あー、そう、なんだけど、さ」
普段は人をイラつかせる天才なのかと思うほどに口が回るのに、今は歯切れ悪く言葉を紡いで俺の様子を伺ってくる。
理由は簡単で、今気まずそうにしているハイエナの獣人トレイルに俺が荷物よろしくクソ野郎の部屋に投げ込まれたあの日、俺があいつにこれ以上ない程の仕打ちを受けたからだ。
事が終わって様子を見に来たコイツがその惨状に責任を感じたらしい。
自分で言うのもなんだが、本当によく生きていると思う。
あれからあいつは頸以外の場所に牙を立て続けた。つまり俺は出血多量で真面目に死にかけたって事だ。
「もう半月同じ事聞いてんだぞ、アンタ。さすがに心配性過ぎるだろ。俺がもう良いって言ってんだから良いんだよ。言われ続ける方がめんどくせえ」
「…いや、だって、さあ…」
「いやもだっても無え。あんたが俺を連れて来てこんな首輪まで嵌めさせたんだろ。責任感じるくらいなら最初っからすんなよ。って、これも前言ったな」
はあ、とため息を吐いて髪をがしがしと乱した。
自分の髪から石鹸のとハーブの香りがして、乾燥でガサガサだった手は今では傷が癒え始めていた。その代わり首や腕、腹部や足に至るまで俺の体には包帯が巻かれている。
俺この虎の国にやって来てから半月が経った。
あの日から、俺は定期的にヤツと肌を合わせている。その度に増える傷を見てトレイルが落ち込むのも、まあ仕方がないと思うが、俺はもうどうでもよかった。
諦めたら楽になる。望むから辛いのだ。
耳に届いた絞り出した様な謝罪の言葉を俺は聞こえないふりをした。
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