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02ー3
狼の獣人はリド、と言うらしい。
着ているものや所作からして貴族であることは間違いないが、それ以外の情報は俺にはわからなかった。ただ、俺の耳や尻尾を時々酷く優しくて悲しい顔で見ているのがすごく印象的だった。
「…嗚呼、すまないね。私にも運命の番が居てね、君、ソロ君と同じ狐の獣人だ」
「え、マジ?…あー、本当ですか?」
「はは、無理をして敬語を使わなくてもいい。私は気にしないからね。ただ、他のもの達には気をつけなさい。些細な言葉や行動が逆鱗に触れる。…全くもって悪き風習というか、視野が狭いというか、貴族の一端である私からも君に対する数々の非礼を詫び無ければならない」
「や、別にいいです。慣れてるんで」
「……慣れ、か」
本当に頭を下げようとしたリドさんに慌てて手を振って必要ない事を示せばぐっと眉を寄せて辛そうな顔をした。それがなぜかわからなくて思わず首を傾げてしまう。
「それを慣れさせてしまった事に、私たちは責任を感じなくてはならないのにね。…はあ、本当に根深い問題だ」
「…上がいれば下もいる。何事にもバランスがあって、時折それが崩れることもあるが時が来れば自然と淘汰される。生き物の流れとはそういう風に出来てるって、俺はある人に教わったんですよ。で、受けれて生きる道を探せとも教わった。そりゃ俺は貴族も王族も大っ嫌いだけど、時々アンタみたいな人もいる。恨んでばっかじゃ疲れる」
豪華な部屋にあるソファに深く座り直して天井を見上げる。
天井にまで細やかな細工を施している事にそこでようやく気がついて、平民の俺からしたら金の無駄遣いだとか細工の存在ごと無駄だとか思うけど、きっとお偉いさん方にはお偉いさん方なりの苦悩があったりする。きっとこの天井の無駄に豪華な模様にも意味があるのだろう。
「受け入れることと諦めることは違うとも教わったけど、俺は未だにそれの区別がつきません。だから、俺は今のこの状況を諦めてる」
「…楽だから、かい?」
「そうしないと俺の心が壊れる。どう取られようが俺は俺を守らなくちゃいけない。正直今まで死にたいって思ったことなんて腐る程あるけど、今ほどそれを強く思ってる日は無いです」
背中に出来た真新しい傷が痛む。僅かに滲む血の香りはきっと届いていることだろう。
「…で、リドさんは俺にどんな話があったんですか?」
「あ、ああ…」
目線を天井から狼の偉丈夫に戻すと、なぜか彼はとんでもなく辛そうな顔をしていた。その事に目を瞬かせていればそれに気づいたのかごほん、と一つ咳払いをして膝に肘を乗せ僅かに上体を乗り出す様にして俺に顔を寄せて来た。
「学んでみるつもりはないかい?この国について、君と殿下について。君は賢い、否、敏いというべきか。知識があれば、それは君の武器にもなるはずだ。どうだろうか、悪い話ではないと思うが」
射抜く様な強い目で告げられた言葉に嘘の匂いは感じられない、けれどそれを俺にして来ることがただただ謎だった。
「…それ、アンタになんかメリットあんの?」
学ぶことは嫌いではない。むしろ憧れてすらいる。それを見透かした様にリドさんは柔らかく笑い、ともすれば泣きそうな顔でくしゃりと口角を上げた。
「…君たちに、幸せになって欲しいんだ」
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