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「国の歴史なんて学んで何になるんだって思ってたけど、案外面白いっすね」 「そうだろう?何事も始まりを知ると知らないとではその物事に対する構え方が違って来る。知識はあればあるほど自分を守る武器になるからね」 本を守る為だろうか、強い光が差し込まない、けれど湿気も感じられない本にとってはいい環境の書斎に俺とリドさんは居た。 あの日、幸せになって欲しいと言った彼の言葉は理解できなかった。 けれどあんな複雑そうな顔で、あんな悲しそうな匂いを出す人の言葉を俺は断ることなんて出来なかった。だからあの日から俺はリドさんとこうして書斎に来ては本を読んで色々と教えて貰っている。 文字の読み書きであったり言葉使いであったり、それこそ身の振り方だったりはジイさんに教わっていたが国の歴史なんてものは全く教わって来なかった。 だから今は獅子の国と虎の国と別れている国が元は一つの国だったと飼いてあったのには心底驚いた。 「そこで運命の番の御伽話に繋がるんだよ」 「は?」 「はは、君は本当に運命の番という言葉が嫌いなんだなぁ。眉間の皺がすごい事になっているよ」 もう殆ど条件反射といって良いほどのスピードでその言葉に嫌悪感を表す俺にリドさんは豪快に笑って眉間にできた皺を人差し指でグリグリと解してくれた。 「一つが二つに引き裂かれ、それを哀れんだ神が別れたものを引き合わせる様に細工を施した。そこは知っているね?」 「…………まあ」 「だから運命の番は互いに反対の国にいる、と言われているんだ」 「…え、はぁ?」 「不思議だよねぇ。運命の番は見つかったという報告例が少ないから一概にそれが正しい、とは言えないんだけどその数少ないうちの一人が私だからね。私の番も獅子の国で見つけたんだよ」 柔らかな光が差し込む午後の穏やかな時間、リドさんは黒板がある方を見て思いを馳せる様に目を細める。まるでそこに誰かがいる様な、そんな温かい目をして口を開いた。 「彼はとても聡明で、警戒心が強くてね。狐というよりも子猫の様だった。全身の毛を逆立てて私が近づくだけで全力で逃げるものだから、最初は驚いたな」 「…でも、運命だったんじゃ」 「そう、運命だったよ。私は一目で彼が自分の半身だと分かった。きっと彼も同じだった。…だけど全力で私から逃げていた。口説き落とすのに三年もかかったからねえ」 過去を思い出して愛おしそうに番について語るリドさんからは優しい匂いがして、思わず俺の尻尾がふわふわと揺れる。こんなαと番えるなら、そのΩは幸せ者だなとすら思った。

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