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02ー5

学ぶのは歴史や計算だけかと思っていたが、何故だか立ち居振る舞いの勉強までプラスされて俺は辟易していた。 実際のところこれが一番暇で苦痛でしょうがない。 どうして食器を一つ持つだけでこんなにも疲れないといけないのか、俺には理解不能だった。 だがこれもリドさん曰く武器になるらしい。普段ならそんなもの腹の足しにもならないと突き返すところだが、王城での生活は俺にとってはとてつもなく暇だった。 「……家事もなんもしなくて良いし、働きに行かなくても良い、贅沢なんだけど。すっげえ暇…」 クソ野郎ヴァイスに呼び出しをくらうかリドさんから授業を受けるかぐらいしか今の俺には暇潰しになるものはなかった。だから今そのどちらもない俺はとてつもなく暇だった。 暇なのはだめだ、余計なことを考えてしまうし何より時間が勿体無い。 そう思った俺はベッドから起き上がり動き易い服に着替えた。 向かうのはドアではなく、窓。一応第三王子の番ということもありそれなりの警護がついているらしい、だから真正面から俺は一人で部屋を出ることはできなかった。 「でもまあ、俺にはそんなルール通用しませんよってね」 質素な服に着替えてしまうだけで俺はそこら辺にいる平民と何も変わらない。唯一ネックだとすれば首でチリンチリンと鳴る鈴くらいだが、これは布でも巻けばなんとでもなってしまった。 という訳で、ここに来て一ヶ月。脱走します。 窓を開けて周りに誰もいないことを確認し、窓枠に足をかけて俺はなんの躊躇もなく飛び降りた。着地の瞬間勢いを殺すために転がってしまえば服が汚れるくらいで体へのダメージなんて皆無に等しい。 それでもあいつの噛み跡が痛むが、そんなものどうでも良いとばかりに立ち上がって服についた土を払う。水分が含まれた良い土だった。 「…驚いたな、空から降ってきたのかい、坊や」 「!?」 背後から聞こえた声にびくうっと大袈裟な程に体を跳ねさせて距離をとり振り返ると、そこにはヴァイスによく似た男が居た。 「……?」 「え、まさか本当に空から降ってきたのかい?ああでもあり得るな、白くて小さくて細くて軽そうで、天使みたいだ」 ゾワゾワゾワっと背筋に鳥肌が立つのがわかった。ニコニコとヴァイスと似た様な顔で笑うこいつは確実にあいつの血縁なのだろう。だとすれば王族で、まさかの事態にブワッと冷や汗が流れた。 「…でも、君からはアイツの匂いがするなぁ…」 「、え」 瞬きの間にそいつは俺の目の前に立っていた。 夕焼けの様な色の目に明るい金に時折黒が覗く特徴的な髪色、白い肌。何もかもがアイツとは正反対で纏う空気すら太陽の様な明るさを感じるのに、恐怖で奥歯がガチッと鳴った。 「兄上」 バシッ、と何かが掴まれた音と聴き慣れた声が耳に届くのはほぼ同時だった。 「…やあ、ヴァイス。割り振った仕事はどうした?」 「終わらせました」 「……そう、流石私の弟だね。優秀な弟がいて鼻が高いよ」 「…手を、下ろして下さい」 「ああ、ごめん。忘れてた」 なんでもないことの様に笑って手を下げた男の爪には赤が見えていた。 「っ、」 「母上がお呼びでしたので、戻られた方がよろしいかと」 「ふふ、そっか。それは戻らないとなぁ。…ねえ、ヴァイス、」 男がヴァイスに何かを耳打ちして、その場を去っていく。 その気配が完全に消えるまで俺はまともに動くことも、息後ろする事も出来なかった。

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