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02ー6

指先から温度が抜けていた温度が徐々に戻ってきた時、俺の前に立っていた男が動く気配がして思わずその服を掴んでいた。 「あ"?」 「手、見せろ」 「俺に命令すんじゃねえよ劣等種が。良いからその薄汚え手を離せ」 「いやだ」 眉間にこれ以上ない程に皺を寄せて俺を睨む男を何故か今は面倒だとも怖いとも思わなかった。未だに震えが止まらない体を深呼吸でどうにか落ち着けながらこいつがさっきから頑なに見せようとしない左手を握る。 「、」 途端に身動いだのを感じると問答無用でその手を引き寄せてそこにあった傷にひゅっと息を呑んだ。 「…お前、これ、」 「うるせえ、お前には関係ない。さっさと部屋に戻ってろ」 「関係ある。これは俺を庇って出来た傷だろ。だから、これは俺のせいだ」 どんな力で爪を立てればこんなにも深い傷を残せるのだろう。 ぼたぼたと流れる赤が地面に落ちて緑のそこを赤く染めていく。 「、ごめん。俺が部屋から出なきゃ、こんな…。あ、そうだ、とりあえずこれ巻けばちょっとはマシになる。ああくそ、こんな時どうすりゃ良いんだ。なあ、トレイルは!?いっつもお前のそばにいんだろ!あいつどこだよ!」 「……、」 首に巻いていた布を外して端を噛み、そのまま力づくで布を裂くとそれを傷口に巻いていく。それでもすぐに赤に染まっていくのを見て周りを見渡してトレイルを探すがその姿は見えず俺は苛立った様に頭をがしがしと掻いた。 「こういう時どうすりゃ良いんだよ。病院?てか城に医者いんじゃねえの。そうだよ医者だ。なあ、城の中に医者いるんじゃねえの。早くそいつのとこ行こ。バイ菌とか入ったらやべえってジイさんが」 「おい」 「なんだよ!」 俺みたいなスラム育ちはどんな傷でも大体放っておけば治る。まず医者にかかる金がないからだ。だから、自分が怪我をしたならこんなにも焦ったりしない。 だけど今怪我をしているのは、俺じゃない。 誰かに庇われるなんて初めてで、内側から来る不安は決してこいつが運命の番だからじゃない。 「こんなんで死ぬ程ヤワじゃねえ。喚くな、鬱陶しい」 「わかんねえだろうが!人は簡単に死ぬんだ、さっきまで笑ってたのに死ぬのなんて当たり前なんだよ!だから、頼むから医者に診て貰えよ。お前、王子なんだからすぐ診てもらえるだろうが…」 最後の方は声が掠れており、声になったかもわからない。 俯いて唇を噛む俺を見たヴァイスが深いため息を吐くのを聞いて、目線を上げる。 「…医者には見せる。だから泣くな、見苦しいんだよ」 「泣いてねえ!」 「うるせえ。俺の番殿は泣き虫だな」 「黙れ。早く行けクソ野郎。そんで二度と俺の前に姿を見せるんじゃねえ」 口の減らないやつだ、と今度こそ歩き出したヴァイスの姿が城の影に消えかけた時、俺は衝動的に声を上げていた。 「、助けてくれて、ありがとう」 その言葉を聞いたあいつは驚いた様に立ち止まりこちらを振り返る。 「……兄上には近づくな」 風に乗って届いた声音は今まで聞いたことがない程に真剣で有無を言わせない響きの乗ったそれに俺は反射的に頷いていた。その拍子にチリン、と鳴った鈴の音を聞いてあいつが少し笑った気がした。

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