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02ー7
トントン、と部屋をドアを叩く音がする。
太陽が真上に昇るよりも少し前、昼飯時に俺の部屋を訪ねる奴なんて2人しかいない。だけど今日来ているヒトがどっちかはもうわかっていた。
「やあソロ君、食事でもどうかな?」
扉が開いてひょっこりと顔を覗かせたのは狼の獣人で俺の教育者でもあるリドさんだ。
偉丈夫が扉から顔だけを覗かせる様子がなんだかおかしくて俺は思わず吹き出すように笑いながらソファから跳ねるようにして立ち上がる。
「行く」
「ふふ、じゃあ行こうか」
デレッと表情を崩す様子は何度見てもどうして俺に、と不思議で堪らないがどうやらリドさんには俺が自分の子供か孫のように思えてならないらしい。
こうやってリドさんやトレイルと一緒なら俺は部屋から正面切って出る事を許されている。
部屋の前に佇む2人の兵士に毎回ちょっと構えてしまうのは仕方がない事だった。スラム街の性だ。
白を基調とした中に歩く場所だけ赤い絨毯が敷かれている廊下をこれ横に何人並べるんだろうと思いながら歩く。
「なんだか今日は機嫌が良いというか、何時もよりキリッとしているね。何かあったのかい?」
すると隣を歩くリドに話し掛けられてギクッと肩が揺れてしまった。そんなにわかりやすいだろうかと自分の顔を触り、気付かれたならしょうがないと深呼吸して立ち止まる。
それに合わせて止まってくれた背の高いリドを見上げて数秒躊躇してから口を開く。
「…アイツについて教えて欲しい」
「…、あいつ、とはヴァイス殿下のことかな?」
その問いに言葉では無く首肯で返す。
「……理由を聞いても?」
意外だった。
てっきりリドさんは両手を上げて喜ぶのだとばかり思っていたから、まさかこちらを見透かそうとする目で見てくる事に目を瞬かせてしまう。
「あ、いや、否定している訳じゃない。もちろん喜ばしい事だ。…けれど、純粋に疑問なんだよ。……君は、あの子からひどい扱いを受けているだろう…?」
慎重に言葉を選んでくれたのだろうか、大きな狼が狐の事を伺うように首を傾げる様はとても面白くて、そしてなんだか愛らしくて俺はまた笑う。
「どんな事にも始まりがある。それと、それに至った理由も。そう教えてくれたのはリドさんでしょ?」
今でもめちゃくちゃに嫌いだし本気で顔も見たくないけど、俺を助けてくれたアイツに嘘を感じられなかった。
「嫌いになるにも理由がいるって思った。アイツがただのクソ野郎じゃないかもって、ほんのちょっとでも思っちまったから」
「…君は、なんというか、」
「ん?」
リドさんがいいや、という様に首を振る。
嬉しいような悲しいようなそんな複雑な顔をしたリドさんを見て、俺は首を傾げる。
それに小さく笑った彼は今度は大きく息を吐いた。
「君はいつも予想の斜め上を行くなと思っていただけだよ。…わかった、教えよう」
「…ありがと。あ、アイツにもトレイルにも絶対言うなよ。絶対だからな!」
「嗚呼、約束するよ。指切りでもするかい?」
「指切りとかガキじゃねえんだからやらねえよ」
体躯に見合った大きな小指を見せられてうへえ、と眉を下げるがなんだか懐かしくて俺は渋々と言う体を装って自分の小指を絡ませたのだった。
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