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02ー11

「…本当に馬鹿だなぁ、ヴァイスは」 目的もなくただアイツの気配がする場所から逃げたくて走っていたら何かにぶつかった。 耳に届いた声に聞き覚えはあるがそんなことに構っている暇なんてなかった。 「ごめん、」 ぼろぼろと訳もわからず流れる涙を拭う事もできず情けないくらい小さな声で呟けば俺がぶつかった人物は意外そうに目を瞬かせた後に口角を綺麗に上げて俺の顔を両手で触って上を向かせた。 「………嗚呼、ショックで壊れかけているのか。ふふ、輪にかけて愚かとしか言いようが無いよね。こんなに強くマーキングしてるくせに頸も噛んで無いじゃないか」 すんすんと鼻を鳴らして首の匂いを嗅いで、ベルトで隠されている未だに無傷なそこを見て男は愉快そうに笑った。きゅう、と瞳孔を細めてベルトに鋭く爪を立てればそれは簡単に地面い落ちていった。 リン、と涼しげな音が鳴るのを俺はどこか遠くに感じながら何も考えられないままぼーっと突っ立って、されるがままにその男の腕の中に収まっていた。 「そうだ、このまま君を俺の番にしたらアイツはどんな顔をするかなぁ…?」 呼吸もままならず体を震わせるのを見てか腕の中でその男は俺が落ち着くようにと背を撫でて強く抱きしめてくれた。とても温かくて良い匂いなのに誰かが俺の中で違うと叫ぶ。 どうして、こいつの方がきっと優しくしてくれる。そう思うのに、本能がそれを許さない。 「…噛まないで」 「……へえ、そんな状態でも運命を選ぶのかぁ。面白くない」 「…番なんて、いらない。もう帰る。俺をスラムに帰してよ」 心に穴があいたように痛む。泣いても泣いても止まる気配のしない涙が嫌で、乱暴に手の甲で拭っていればその手を太陽の匂いがする男に取られた。 ぼんやりとする視界の中で見えるのは金色。夕焼けみたいな目の色が面白そうに俺を見て顔が近づいてくる。 「…、っ、ンンッ、ゃ、んぅーーっ!」 「……キスも、運命以外じゃ無理…?」 後頭部を大きな手で押さえられ逃げないように固定されて柔らかいものと唇が触れ合う。それがその男のものだと理解するや否や全身から拒否反応が出る。 とにかく嫌でしょうがなくてまた涙が際限なく溢れ出す。違う、違うと心が叫ぶけれど脳裏に浮かぶのは寄り添い合う二人の姿で、それを思い出した瞬間体から力が抜けるのを感じた。 ガクン、と膝から崩れ落ちそうになった俺を抱えるようにして抱き上げた男は心の底から楽しそうに微笑んだ。 「…ソロ、だったよね。君は面白いから暫く側に置く事にするよ。あー、あの時殺さなくてよかったぁ。これからよろしくね」 ちゅ、と唇が触れ合っても、もうそれを拒否する気力なんて俺にはなかった。 どうしてこんなにも辛いのか、全くわからない。 ただ酷く体がだるくて、俺はそのまま意識を失った。

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