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02ー12

ヒソヒソ、ヒソヒソ、噂話が聞こえる。 「聞いた?ヴァイス様の番、今アルヴァロ様のところに居るらしいわよ?」 「ええ!?嘘でしょう、いくらなんでもそれは有り得ないわよ!」 「これが有り得るのよ。私見ちゃったもの!アルヴァロ様がヴァイス様の番に口付けをしてその後自ら抱えられたの!」 きゃーっと姦しいメイド達の話を耳にして足を止める者がいた。 「でも、運命なんでしょう?それならどうして、」 「運命って言ってもまだ頸を噛んでいなかったそうよ。それなら別に良いんじゃないかしら」 「噂によればアルヴァロ様が正式に番にって迫ってるらしいわよ」 「えええええええ!!」 そんな騒がしい朝、メイド達が迎えて壁に控えていたメイド長にお説教を食らっているのと同じ時間、別の場所で俺は大きなふかふかのベッドで眠っていた。 「…ソロ、ソロ。起きて、ソロー」 「…嫌だ、」 「えー、それは困ったなぁ」 すぐ側でぐるぐると心地の良い音が聞こえて更に覚醒が遠のいていく。 そんな様子を見て笑っていた男は躊躇せず流れるような動きで薄茶色の尖った耳に軽く牙を立てた。 「ぅあっ!、……アル、耳はやめろって言ってんじゃんか」 「ソロが起きないから悪いんだろう?」 「そうだけど…」 のそのそと身体を起こして身体を伸ばす。 パキパキと骨が鳴るのを聞いた金色の獣人が面白そうに喉を鳴らした。なんだろう、と目線を向ける前に大きな身体に包み込まれて目を瞬かせる。 「…アル?」 「ううん。まさか自分がこんな風にヒトを甘やかす日が来るなんて思わなくておかしくって」 「……」 柔らかく包み込んでくれる両腕はとても温かくて優しい匂いがする。だけど、体は違うと叫び続けている。 「ソロ、ご飯食べようか。やっぱりどうしたって君は痩せ過ぎてるからなぁ。もう少し肉付きが良くなった方が抱き心地ももっと良くなる筈」 「これでもすげえ太ったよ」 「ええ?これ以上細いなんて想像出来ないな。今だって私が力を入れてしまえば直ぐに折れてしまいそうなのに」 するりとアルヴァロの大きな手が俺の頸を掴む。それに身体がびくんと大きく跳ねて急所を捉えられた恐怖と運命の番以外に触れられた事に拒否反応が出る。 呼吸を乱れさせて身体を震えさせる俺を見てアルヴァロは心底楽しそうに笑う。 三日月の様に目を細めて顔を近づけたかと思うと唇が触れ合った。 「…ふふ、可愛いな。こんなに怯えてアイツを求めているのに、それでも私すら拒否できない愛に飢えた子。可哀想で、可愛い」 頸を指先でなぞられて、それが背中を伝い尾の付け根を擽られる。服の上から全てを撫でられても俺の体はずっと震えるだけ。 「君が私の番なら、うんと愛してあげたのにね…?」 そう囁かれて首元に小さな痛みが走る。 それがなんなのか理解するよりも前に唇が重なって、泣き叫ぶ心を無視して俺は目を閉じてアルヴァロの背中に腕を回す。 誰でもいいから優しくして欲しかった。 例えそれが歪んでいても、本当は俺のことなんて微塵も思っていなくても、それで良かった。

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