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03ー2

この城に来てどれくらいの日数が経過したのだろうか。 来たばかりの頃は連日太陽が燦々と照り付け夜でさえ暑いと感じる程だったが、今ではその暑さも和らぎ夜にもなれば多少涼しいと感じられるようになった。 それほどに長い時間を虎の国、それもその国の王城で過ごしていることが今でも不思議でたまらない。 運命の番だからと連れて来られたのに、俺の首には噛み跡はなく、なんなら番であるはずのヴァイスの側ではなくその兄のアルヴァロの側にいた。 アルヴァロはこの国の第一王子で正式な王位継承者、つまり次期国王様らしい。 ヴァイスの兄と聞いた時点でそんな予感はしていたが、いざ本人から聞くと実感が湧いてきて恐れ多い事この上ないがアルヴァロ自体がそんなことを欠けらも気にしていなかった為俺は今も何故かそいつの部屋で寝泊まりしていた。 「ソロ」 「んー…?」 「何を読んでいるの?」 座り心地抜群なソファに埋もれるようにして座り本を読んでいれば公務の休憩時間らしくアルが少し疲れた様子で部屋に入ってきた。すぐに俺の側に来て隣に腰かけて迷うことなく俺の腰に腕を回して抱き上げ膝の上に下ろす。 「歴史書。なあ、この体勢尻尾痛いから嫌だって言った」 背後から抱えられると身長のせいか体格のせいか、どこかの姿勢が悪いらしく尻尾が痛みを訴える。そんな事を言っても絶対に離さないやつだとわかっている為それ以上言葉を続けることはせず、しょうがないとばかりに背中を預けると腹の前で組まれた腕が更に強く体を締め付けた。 「ソロ」 「んー?」 「番になろうよ」 「…無理」 「運命じゃないから?」 小難しい事が所狭しと書かれている本を読んでいれば後ろからひょいとそれを取り上げられて放り投げられる。 甘さを含んだ声で囁かれる言葉はここ数日で何度も聞いたもの。 後ろから頸を鼻先で擽られて思わず両手で隠すように覆った。 「俺は番なんていらない」 「でも愛情は欲しいんでしょう?俺なら与えられるよ。愛情も、優しさも、体温も。ソロが望むならなんだってあげる」 「……お前のそういうとこ嫌いだ」 「あはは、ごめんごめん。もう言わないから嫌わないで?」 このアルヴァロという男は、きっと今この城にいる誰よりも俺の事を理解していた。俺だけではない。コイツはきっと自分がヒトと認識したヤツのことは大抵理解出来る。 触れられたくない、気付いてもいなかった部分をコイツは無邪気な笑顔で抉ってくる。 「…ヴァイスにもこんな風に抱き締めて貰いたかった?」 「やめろ」 「ここを噛んで貰って、番になって、溶かされちゃうくらい愛されたかった?」 「やめろって言ってんだろ!」 振り払うようにアルの膝から降りて床に蹲る。 どこまでも柔らかい声で囁かれた言葉たちは容赦なく俺の心を切り刻んでいく。 「…ヴァイスも馬鹿だよねぇ。トレイルなんて愛しちゃってさ」 「やめろってば!!」 一番聞きたくなかった言葉が耳に届くと俺は思わず両耳を塞いで子供のように首を横に振った。 そんな俺を見てアルヴァロはうっそりと満足そうに笑う。また抱き締められて、すっかり呼吸が乱れてしまったのを落ち着かせるように背を撫でられた。 「ふふ、ごめんね。あんまり可愛いからつい意地悪しちゃった」 欠けらの罪悪感も感じられない声にぞわりと毛が逆立つのを感じた。 怖い。怖いのに、俺はコイツから与えられる優しさを手放せないでいた。

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