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03ー3

「ソロ君、やっほー」 その声を聞いた瞬間俺は弾かれたように走り出した。 行き場所なんて決まっていない。ただあの声を聞きたくなくて俺を視界に入れられることすら嫌で、惨めで辛くてどうしようも無かった。 後ろから焦ったように俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。何度も待って、話を聞いてと訴えて来るがそんなものが聴ける余裕なんて俺には微塵もなかった。 否、元々余裕なんて持ち合わせていない。ただそう見せないと付け込まれるとわかっていたからそう装っていた。 この城に来てから、アイツに会ってから、俺はどんどん自分の事が嫌いになる。 「ソロ君!!」 切羽詰まったような声が耳に届くのと、窓ガラスの割れる音が重なる。 メイドの悲鳴とトレイルの叫び声が聞こえる中俺は重力に逆らうことなく地面に向かって落ちていく。 肺が押し潰されそうなほどの衝撃と骨が何本か砕けた音がした。 でも、まだ立てる。 「…っ、」 「…ダメだ、そんな傷で動いたらダメだって!!衛兵!早く第三王子の番を捕まえるんだ!!」 息をする度に肺が裂けたかのように痛み口内に鉄の味が広がる。 城から聞こえるざわめきに俺に残された時間はあと僅かだと悟り痛みを無視して走り出した。擦り剥いた頬から血が垂れ、痛みで感覚を失った片腕、そして血が混じる息にどこか懐かしさを覚えて思わず笑ってしまった。 遠くから聞こえる音から逃げるために塀から近い木へと上り、そして勢いのままに飛び移る。 言葉にならない激痛に全身から汗が噴き出すが塀の上から見えた景色に心が躍るのを確かに感じた。 そこには、城の窓から見るものとは全く違う人が生きる街の姿があった。 夕陽に照らされて活気のある街並みに、行き交う人々の確かな息遣い、好きに生きているヒトがそこには沢山いた。 自由が、そこにあった。 「ソロ!」 酷く焦ったような声だった。聞いたことのない、焦りと心配の色が濃く乗ったアイツの声だった。 そんな筈はないと振り返ると城の窓から今にも飛び降りようとしているアイツの姿が見えた。 アイツが呼んだのだろうか、否、そんな筈はない。 アイツはあんな声で俺を呼ばない。 あんな顔で、俺を見たりしない。 俺の心で泣き叫ぶが都合よくそう見せているだけだ。 塀の上で立ち上がって城の方を向く、それだけでアイツとトレイルが城の中で安堵しているように見えた。その様子にギシ、と体とは違う痛みが胸に走る。 だけどこれでよかったんだとそう思う自分も居て、自分でもよくわからないまま笑っていた。 「…あんたなんて嫌いだ」 そう呟いた声は聞こえただろうか。 誰にも何の痛みも与えることはないだろう俺の呟きは空気の中に溶けて消えていく。 騒がしい音がすぐ側まで迫っていた。 離れたくないと悲鳴を上げる心を無視して、俺は塀から飛び降りた。

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