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03ー5

「やべえ、これはまじでやべえ」 「えー、これヤバさレベルいくつくらいー?」 「ざっと見で50!」 「やばば!!」 頭上で何やら騒がしい声がする。 声の高さや舌足らずな感じからしてまだ子供だろう。その子たちが、何やら俺のすぐそばであーでもないこーでもないと素っ頓狂な案を出し合っていた。 「イチはこの人お姫様だと思う!髪の毛短いし血だらけだしガリガリだけど!」 「んなわけないじゃん。こいつはスパイだよ。じゃないとこんな怪我してる筈ねえもん。というわけでニイ様の見解はどっかのスパイ!」 「えー、スパイがこんないい服着るー?」 「貴族に馴染もうとしたんじゃねえの?ガリガリだけど」 「…どっちも違うんだけどさ、とりあえず水くんない?」 「わああああああああ喋ったああああああ!!!!!」 元気が良すぎる子供の声が傷に響いてあまりの激痛に涙が出てきた。 あー、何があったんだっけとボロボロになった体を庇いながらなんとか上半身を起こすとそこは建物の中だった。 「……?どこだ、ここ」 「起きたか、家出坊主」 「!!?!?!いっで…!!!」 「急に動くと痛むに決まっているだろう、全くお前はいつも無茶ばかり…」 枝のように細い体と嗄れた声、そして知性が宿った温かい目を見て俺は信じられないとでも言うように目を見開いた。 「…え、俺死んだ?」 「ここが黄泉の国だとでも思ったか。生きているよ、お前も儂も」 「…ジイさん?」 「それ以外の誰に見える」 かちゃりとテーブルにトレイが置かれ水の入ったコップを持ったジイさんが俺の背中を支える様にして手を添えた。 未だに少し信じられない俺はおずおずとコップを受け取ってゆっくりとそれを飲み干すと喉を通る冷たさとそれが胃の辺りまで一気に入っていく感覚に徐々に頭が冴えていった。 「……マジでジイさん?」 「同じことを二回も聞くな」 空になったコップを受け取りテーブルへと戻したジイさんの姿をじっと見る。 匂いも、老いてなお何故か豊かさと艶を失わない尻尾もジイさんと一致する。 「…ここ、どこ?」 「虎の国だ。そこの貧困街に位置するな。…まあ獅子の国のスラムよりは余程栄えている。水もそこの井戸から汲んできたものだ」 「…へえ、生きるのにそこまで困らないっぽいな」 「ソロ」 綺麗な水が飲める、それだけでこの国の豊かさを理解して思わず笑ってしまう。 その振動で身体が痛みすぐにその笑みも引っ込んで、俺はゆっくりとベッドに横になった。 なんだかスラムに戻ってきた様な安心感と同時に言い様のない寂しさが内側を蝕んでいく。 そんな俺のことをわかっているかの様に相変わらず荒れ放題の手でジイさんは俺の頭を撫でた。 撫でるの下手だなぁ、と頬が緩んでしまう。 「……ゆっくり休め」 「…ん、」 その言葉に小さく頷いて、俺は吸い寄せられる様に眠りへと落ちていった。

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