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03ー6
ドタドタと小さな子供の走り回る音で目が覚める。その音が部屋に迫ってきてばん、と勢いよく扉が開き小さな猫の獣人が飛び込んで来た。
「あー!今日も起きてるーー!」
「くっそー、また負けた」
「あんなうるさかったら誰でも起きるっつの」
黒猫とイチと白猫のニイはこの貧困街に暮らす双子だ。で、この二人と俺とジイさんが暮らしているこの家はなんとジイさんの持ち物らしい。
色々と聞きたい事はあるがそれはきっとあちらも同じなんだろうと思えば自然とその話題が口から出る事はなかった。
「あ、ジイさんが朝ごはん出来たって!」
「今日はオムレツだってー!」
きゃっきゃと嬉しそうにしながら嵐の様に去って行く二人の後ろ姿を見送るとベッドから起き上がる。
俺が城から逃げ出して、今日で3ヶ月になる。
怪我は随分と良くなった。
ただ医者には行きたくないと俺がごねにごねた為受けたのはジイさんの応急処置のみ。そのせいか骨がうまく噛み合っていない様な気もするが、生きていられるだけで良しとした。
「いてて、」
痛む胸を押さえながら数回深呼吸して痛みを散らし、匂いを辿っていつも4人で食事をしている部屋に入る。
4人が座るには小さいテーブルに形が崩れたオムレツが皿に乗って鎮座していた。
「おはよ、ジイさん。やっぱ不器用だよなぁ」
「文句があるなら食うな」
「食うなー!」
ギョッとして慌てて手を振り謝るとジイさんは鼻を鳴らして椅子に座る。どうやら許してくれたらしい。
それを理解してから同じく腰を掛けるとそれが合図だったかの様に子供達が食事を始める。
「んまーい!」
「オムレツ美味しいーっ」
満面の笑みで食事をする子供達を見てしっかりと癒されて居ればこちらを見る目線に気がついて息を吐く様に笑った。
「大丈夫、ちゃんと食うって。…ん、うん、うまい。最初の頃砂糖と塩間違ってたのが嘘みたいにうまい」
「ソロ」
「えー?ジイちゃんそんな間違いしたのー?」
「ジイちゃんも失敗するのか」
「…ソロ」
今度こそ怒ったらしいジイさんが俺のオムレツが乗った皿を奪おうとするがすんでのところでそれを止める事に成功して俺はあまりのおかしさに声を上げて笑っていた。
嘘みたいに穏やかな日々を過ごしていた。
まるで城で過ごしたあの日々が全て幻だと思えるほど、本当に穏やか過ぎる幸せな日々だった。
「ソロー、朝ごはん食べ終わったら買い物いこー?」
「うんどうもしなきゃダメなんだぞ」
子供たちの誘いに曖昧に笑って誤魔化そうとするが今し方俺が怒らせたジイさんがそうは問屋が下さないとばかりに口を挟む。
「いいんじゃないか?だいぶ身体も良くなったし、確かにイチとニイが言う通りお前は運動をするべきだ」
「べきだー!」
意味もわからないまま楽しげに賛同する黒猫のイチに、そして言葉には出さないがそわそわして尻尾を揺らすニイに、俺はとうとう折れたのだった。
「わかった、買い物行こう。ただし俺の名前は外で絶対に呼ばない事。俺のことは、そうだな…、兄ちゃんって呼べ」
「はーい」
元気よく返事をした二人の頭を思わず撫でてしまった。
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