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03ー7

空気は砂漠と同じ程に乾いているのにこの街の賑やかさはそれを感じさせない程活気に溢れていた。 街の広場の中央部には噴水があり、常に綺麗で冷たい水を吹き上げその飛沫が太陽に照らされてまるで宝石の様にキラキラと輝く様はただ美しいという他無かった。 柔らかな花の匂い、土の匂い、そして美味しそうな料理の匂い。行き交う人々の殆どが笑顔で、貧困街のものを誰も笑ったり蔑んだりしない楽園の様な世界が目の前に広がっていた。 「ソ、…じゃ、なかった!お兄ちゃん、こっちこっち!」 「あ、待てよイチそっちよりもこっちが先だってば!」 「あああ腕引っ張んなぁあ…!!」 自分が知っている街とはすべてが違うことに目を奪われて思わず目深く被ったフードを少し上げようとした時、俺の両隣にいるイチとニイが同時に反対方向へと俺の腕を引っ張った。 もうだいぶ回復したとはいえ子供の容赦ない力で腕を引かれると流石に結構な痛みが走り声に泣きが入る。それに気がついた子供たちがパッと手を離して二人して不安そうな顔をするものだから頬が緩むのを抑えられなかった。 「痛かったけど大丈夫。もうしないもんな?よし、順番に回るか。イチとニイはどこに行きたかったんだ?」 二人の手を引いて少し人の波が引いた場所へ来るとその場にしゃがんで目を合わせる。まだまだ幼い二人の赤と青の綺麗な目が涙で潤んでいるのを見て込み上がる愛しさに抗うことなく抱き締めてこれでもかというくらい頬擦りをする。 「んなっ!」 「にゃっ、なになにっ?」 「怒ってないから叱ったりもしねえよ。ほら、どこ行きたいか言ってみな?兄ちゃん元々元気だから好きなだけ付き合うぞ」 艶やかな黒髪が乱れるほどに構い倒せば意外にもニイの方から口を開く。 「お、オレ、本屋行きたいっ。ソ…っ、に、兄ちゃんに選んで欲しいっ」 「ええー、いいなぁ!でも、わたしの行きたいところもすごくステキなのっ。とーっても甘いお菓子を売っててね、それをソっ、お兄ちゃんとジイちゃんに食べて欲しいっ」 「そっかそっか、その二つとも行こうな。じゃあまずはニイの方からにするか」 欲しいと思ったものを手にすることが出来る環境が、自分のお小遣いを使って他人に施そうとする優しさや余裕があることに驚かされる。 表情にこそ出すことはしないが俺はこの国の豊かさに何度も驚いて、その驚いた分だけ心臓が締め付けられたかのように傷んだ。 生まれた環境でこうも違うのか。 こんなにも、差が出るのか。 走馬灯のように駆け巡る記憶に仄暗い感情が腹の中をぐるぐると回るがそんな鬱屈とした気分も子供達が嬉しそうな顔をするだけで吹き飛んでいく。 「約束守れてて偉いな。帰ったらジイさんと一緒に遊ぶか」 「!遊ぶー!」 ぽんぽんと頭を撫でてからゆっくりと立ち上がると両手を子供たちに握られる。けれど先ほどのような勢いは無く、ただしっかりと握られた手を見て俺はまた笑ってしまった。 可愛くてしょうがない、声には出さないが心の中で何度もそう呟きどうにか平常心を装って俺は子供たちに腕を引かれるままに歩き出した。

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