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03ー10
持って帰った大量のお菓子にさすがに驚いたのか普段見ることが無いような驚いた顔をしたジイさんとその顔を見てしたり顔をする子供たち、そして嫌がるどころか艶のある尻尾を振って口ではしょうがないと言いながらケーキの入った箱を持つジイさんに本当に甘いものが好きなのだと驚いた。
いつも眉間に深く刻まれている皺が薄くなるほどに柔らかい表情で大事そうに箱を抱えるジイさんは俺の知っている人とは別人のようで、けれどそれも確かにジイさんで、俺はなんだか複雑な気持ちになった。
「ソロ、おかえり。お前の持ってる箱には何が入ってるんだ?」
「クッキー」
「そうか、紅茶を淹れねばならんな」
ゆらゆらと尻尾を揺らしてキッチンへと消えていったジイさんを見て子供達が後に続く。
俺はクッキーをテーブルに置いて、一旦俺の部屋になっている屋根裏部屋へと向かった。
ガチャリと扉を開けて作りのしっかりした椅子に腰掛ける。
背もたれに背を預けて一つ息を履いた後、片手に持っていた袋から一冊の本を取り出し、袋はベッドに放り投げてじっとその表紙を眺める。
印字されたタイトルを指でなぞって開く前に一度深呼吸をした。
すー、はー、と深い呼吸音が部屋に響いて緊張に震える指をどうにか宥めて表紙に手をかける。ゆっくりと、本当にゆっくりと表紙を捲り現れた写真に唇が震える。
――愛しい君へ
タイトルの通り、そこに写っている作者であろう男リドリウス・ラルゴは、俺の知っているリドさんは蕩けそうな笑顔で自分の隣にいる人を見つめていた。
随分前の写真だろう。記憶にあるリドさんはもう老人と言って差し支えない程に年齢を重ねていた。
けれどこの写真に写る彼は随分と若く、そしてどこか雰囲気が鋭い。けれど彼がリドさんだとわかったのはその目の優しさだった。
この目は、番の事を語っていた時と同じだ。
どこまでも愛おしそうにそして優しく溶けそうなほど甘い目で自分の番のことを語るあの人を思い出して少し気分が軽くなるが、意識をリドさんから隣に写る彼の番であろう人物に移すにつれて心臓が騒ぎ出す。
若かりし頃のリドさんに肩を抱かれそれに対して心底嫌そうな顔をした、写真でも分かるほど艶やかな狐族の耳と尻尾。Ωらしい線の細さと狐特有のキツい顔立ちをした美しい人を俺は知っていた。その知性を宿した、優しさを隠しきれない目は俺が良く知る人物と全く一緒だったから。
「……ジイさん…」
なんで、と声にならない疑問が空中に溶けていく。
――ソルフィ、君に会えた事が私の人生の最大の幸福だ
写真に書かれたメッセージはきっとリドさんの心から来る言葉だろう。
なんで、とまた答えのでない疑問を胸に抱きながらページを捲るために伸ばした指先は自分を呼ぶ声でピタリと止まった。
「ソローー!パーティーするよー!」
「早く来ないと俺が全部食うからな!」
無意識に止めていた息を吐き出してパタリと本を閉じる。念のためそれをベッドの下に隠して俺は深呼吸をした。
「今行くー!」
意識を切り替えるため風が吹いて揺れる水面のように荒れた心を少しでも凪ぐようにと顔を両手で叩いてやけに重く感じる扉を開いて部屋を出た。
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