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04ー4
「…ソロ、俺が嫌いなのはわかってる。けどどうしても話したい。ここを開けてくれ」
いつも尊大で自分以外の生き物なんて虫けら程度にしか思っていない様なヴァイスしか知らない俺からすれば今扉の向こうにいる人物は全く知らないヤツだった。
今にも泣き出しそうなほどか細い震えた声で俺に懇願するこの声の主は、本当にあの男なのだろうか。
「…ソロ」
「ソロをいじめるな!」
にわかに信じられなくて、ただ混乱した頭では何か言葉にする事も出来なくて扉の前で呼吸を荒くしていた俺の耳に幼い子供の声が響きガツンと脳を揺らす。
ひゅっと喉が鳴り気がついた時には木製の扉が壊れるんじゃないかという様な勢いで開け放ち目の前にいた男を睨み付ける。
「その子に手を出したらお前を殺すからな…!」
俺が姿を見せた事で一瞬安堵に近い表情を浮かべた綺麗な顔が、次の瞬間には深く傷付いた様な顔をした。
眉を寄せ、何かをこらえる様に唇を噛み俺を見るその男はやはり俺の知るアイツとは別人の様に感じた。
だってアイツは、こんな顔しなかった。
「…手を出すつもりは一切ない。誓ってもいい」
やがて絞り出す様に呟かれた声に俺はハッとして階段で今にも泣きそうな顔をして震えているニイを見つけるとアイツの身体を押し退けて駆け寄った。
「ニイ、大丈夫だから。怖かったな、怖がらせてごめんな」
「…オレが、ソロの名前呼ばなかったら、ソロ怖い思いしなくてすんだ…?」
自分の所為で俺を怖がらせたと思い遂に泣き出してしまったニイの小さな身体を抱き締めてぽんぽんと背中を撫で、諸悪の根源であるアイツに目線を向けようとすればそれよりも先にアイツがニイのそばにしゃがみ込んで目線を合わせていた。
近過ぎる距離にも、アイツのその行動にも俺の心臓は早鐘を打ち思わずニイを抱き締める力を強める。
「ガキ、お前は何も悪くねえ。俺はソロの匂いを辿って来ただけだ。だから俺が全部悪い」
アイツの口から紡がれる言葉があまりに信じられなくて目を見開く。有り得ないと否定したいのに、やはりこの男に何かを言おうとすると喉が張り付いた様に声が出なかった。
「…あんたが全部悪いの?」
「ああ、俺が全部悪い」
「ソロが怖がってるのも…?」
「…ああ、俺の所為だな」
「けんかしたの?」
「…まあ、そんなところだ」
穏やかな声ですぐ側で行われる会話に頭がついて行かない。
本当に、この男は誰なのだろう。
「ちゃんとごめんなさいしたのかよ」
「……これからするところだ」
その言葉でアイツの意識がニイから俺に移ったのがわかり俺の体は面白いくらいに強張った。それは俺に抱き締められているニイも感じたのか心配そうな顔で俺を見ていた。
「ソロ、話がしたい」
どくどくと心臓が煩い。嫌な汗が全身から流れて呼吸が乱れる。
「…俺と話す事ないんて無いんだろ?さっさと消えろ」
「きゃーーーっ!!王子様がいるーー!!!」
帰宅したイチの黄色い悲鳴がその場の空気を切り裂いた。
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