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04ー5

これ以上ないという程の緊迫した空気を黄色い悲鳴で打ち破ったイチは大きな瞳をキラキラと輝かせながら、見た目だけならば間違いなく王子と呼ばれて差し支えない男に向かって駆け寄る。 「わあ、真っ白…。でも明るいところでみたらキラキラしてきれいっ。目は紫なのね…。ブドウより綺麗…」 「…葡萄」 「王子様のお顔この前クマのおじさんの本屋で見た王子様とそっくり!あの人もね、王子様みたいに綺麗でね、格好よくてね、あ!!もしかして王子様あの本から出て来たの?」 「……」 「……イチ、困ってるからやめてあげな」 ニイと目線を合わせる為にしゃがんでいたからだろう。あの男の目の前まで迫ったイチは更に顔をずいっと近付けて文字通り穴が開くほどじっくりと見つめて褒めそやす。 だがその褒め方と勢いはきっと生まれてこの方経験した事がない類のものだったのだろう。 目を丸くして勢いに押されてたじろぐアイツの姿を見てほんの少しだけかわいそうになって声を掛けるとイチはそこで漸く俺とニイに気が付いたのか目をパチパチと瞬かせた。 「…なんでニイがソロにぎゅってされてるのー!?ずるい!私も私もーっ」 「ぇ、待てイチ待てーーっ」 ぴょんと飛び跳ねる様にして腕を広げて抱き着いて来たイチに今度は俺が目を丸くして咄嗟に受け止めようとするが流石に元気いっぱいに飛び込む子供を支える事は出来ず、背中に来るであろう衝撃に耐えようと目を閉じて身構えた。 とすん、と予想していたよりも柔らかな衝撃と想定していた背中の痛みは来ず、むしろ温かいものに支えられておりすぐ近くで覚えのある匂いがして目を見開く。 「急に抱き着くと危ねえだろうが。怪我したらどうする」 「…えー、王子様なんでそんな乱暴な言葉遣いなのぉ。乙女の夢を壊さないでほしいっ」 俺が拒絶の言葉を吐くよりも早くアイツがイチに話し掛けると胸の内にドス黒い、気持ち悪い感情が広がっていく。 だけどこれ以上子供たちの前で情けない姿を見せたくなくて、今すぐにでも怒鳴り散らしてしまいそうな激情を我慢する為に俺は唇をガリッと音がする程強く噛んでしまった。 「…ソロ」 「…お前に名前を呼ばれる筋合いは無えよ。…帰れ、俺はお前なんか知らない」 「……ソロ?」 「ー〜っ!イチも、ソロも、オレのこと忘れてるだろー!!」 イチと俺の間に挟まれうまく呼吸が出来なかったのだろうか、酸欠の様に顔を真っ赤にしてニイが顔を上げると威嚇する様に牙を剥き出しにして俺の腕から逃げる様に身体を捩り、イチを軽く突き飛ばすとイチをビシッと指差した。 「イチはいっつもいっつもマイペース過ぎるんだよ!ソロは今すげえ怖がってんだぞ!なんでわかんねえんだよ!」 「ソロ怖がってるの?どうして?」 「イチが王子様って言ってるアイツが嫌いなんだって」 「え、王子様わるものなのっ!?」 「今それをだ」 指差すのをやめ腰に手を当ててえっへんと胸を張るニイの姿におお、と感心した様な声を上げるイチ。子供たちのテンションに完全に置いてけぼりを食らった俺とアイツはそのまま固まっているほか無かった。 「…これは一体どんな状況なんだ」 その時聞こえた新たな声に俺は安堵からやっと呼吸がうまく出来た気がした。 ジイさん、と声をあげようとした矢先に見えた見慣れた人物の姿に俺はぽかんと口を開ける。 「…リドさん…?」 そこにいたのは困惑という文字がこれ以上ない程に似合う顔をしたジイさんと、そのジイさんの肩に腕を回しにこにこと微笑んでいるリドさんだった。

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