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04ー6

突然の登場に呆気に取られていたがアイツの「ソルフィ、」と幽霊でも見たかのような声で呟かれた言葉にハッとしてジイさんを見れば、何故だかジイさんが今にも不安で倒れそうな顔をしていた為慌てて立ちがって側に行く。 「ジイさん?どうした、具合悪いのか?」 「え、ジイちゃん具合悪いの?風邪?」 「…病気?」 「違う。……ソロも殿下も気になる事はあるでしょうが、後にしましょう」 今まで自分の肩に触れていたリドさんの腕を緩く解きこちらへ、と促すようにいつも食事をしていた部屋に消えていったジイさんの背中を見て妙な胸騒ぎがしたし、疑問に思うことが山のようにあった。 煮え切らない顔をしていたのだろう、リドさんが俺を見て困ったように眉を下げて笑っていた。 「…私達の話はとても長くなる。疑問なら後でいくらでも聞くが、今は少し落ち着こう。……君たち、悪いが少しの間ソロ君と、ジイさんだったかな?彼らを借りてしまうけど、良いかい?」 「……意地悪しない?」 「ソロも、ジイさんも、怖がらせたりしない?」 「…そうならないように頑張るよ」 体の大きなリドさんが歩くたびに家の床がギシりと軋む音が鳴り、その事に子供たちが怖がっている事に気がつき彼はピンと尖った耳にへにゃりと力なく垂れさせて悲しそうに背を丸める。そうして落ち込んでいたリドさんだが部屋から自分を呼ぶ声を聞いてすぐに背筋を伸ばし颯爽と歩いていってしまった。 「……ソロ」 「…俺の部屋に行ってろ。すぐに終わるから、そしたら今日はシチュー作ろうな」 「、うん」 「怖かったらすぐ呼べよ、オレとイチで助けに行くからなっ」 「…ん、ありがとなお前ら」 子供を俺の部屋へと見送り、なんの言葉も発さずにただ俺を見続けるアイツの目線が煩わしくて思わず舌打ちをしてしまう。 その視界に収まるのも嫌で俺もリドさんに続いて部屋に行くがそこにいかにも今から話すぞ、という感じがダダ漏れの二人を見て俺は腹の奥底でドロドロと蠢く言葉にならない感情を吐き出すように溜息をついた。 ―――― スラムにいた時よりも随分立派な木とレンガで作られた家は俺と、ジイさん、子供たちの4人で住むには充分過ぎるほどにいい家だった。 勿論豪華だとか、広いとか、そんな事はないし雨が降れば雨漏りもするような家だけど、ちゃんと屋根があって風除けも出来てそして暖かくして眠れる家は俺にとってはこれ以上無いほどの豪邸だった。 けれどそこに生まれも育ちもやんごとない御仁が二人も来たら話が違ってくる。 四人で囲むテーブルもがっしりとした体格にリドさんと、リドさんほどではないがそれでもしっかりと鍛えられているアイツが二人並んでしまえば途端に快適だと思えた家が狭く質素なものに見えて来てしまい俺は思わず眉を寄せた。 窓から差し込む光が真昼の輝きから夕方の柔らかなそれに変わっていく時間帯、開いた窓から吹き込む風がアイツの長い髪をさらってそれが光を浴びて輝く様はさながら宗教画のような美しさがあり、そこでも俺は住む世界の違いを感じて自嘲気味に口角を上げる。 いつもは四人でいるはずの居心地の良い空間が一気に地獄のような辛さに変わり、胸の内に巣食う黒いモヤが猛スピードで膨れていくのがわかった。 そんな空間に一秒だって居たくなくて、子供たちを俺の部屋で待つように言い聞かせて来ようと椅子に座る事なくドアのすぐ側の壁に寄り掛かっていた俺が動こうとした途端アイツの声が耳に届いた。 「ソロ」 「………」 「…ソロ、待ちなさい」 「……は?」 呼び止めるように名前を呼ぶ声を無視して行こうとすると耳に慣れた声が俺を止めた。 そのことが信じられなくて、思わず後ろを振り返ればそこには厳しい目をしたジイさんが居て俺は一気に混乱した。 「、なんで、なんでジイさんが止めるんだよ。アンタまで俺を見捨てんの?アンタもアイツみたいに俺をモノ扱いするつもりかよ!」 一度堰を切ってしまった感情は歯止めが効かなくなることを俺はこの時初めて知った。 絶対的な味方であると信じて疑わなかった人が、自分を追い込むような選択を欠片でも取るはずがないと盲信していたから。 「……自分が運命とうまく行ったから俺もそうなるとでも思ってんのかよ」 「、ソロ、違う。落ち着け」 「何が違うんだよ。俺とアンタらは違うだろ。アンタは、ジイさんはリドさんから大切にされてる。でも、俺は違う」 カタリと椅子から立ち上がり俺に手を伸ばそうとしたジイさんの手を反射的に払い退けてしまい、それで途方に暮れたように表情を無くす彼を見て俺は自己嫌悪でどうにかなりそうだった。 でも、それでも口が止まらずどす黒い感情に支配されるままに歪に口角を上げて呆然とした顔で俺を見るを睨みつけた。 「…Ωの中でも劣等種、王族と対等だと勘違いして思い上がったただの子供を産む道具。…アンタは俺をそんな風に言ったヤツに何を期待してんの」 は、と俺の乾いた笑いが怖いほど音のしない部屋にやけに大きく響いて、そして誰も何も言わないまま数秒が経ち息を深く吐いた。 「…お前とトレイルが運命だったら良かったのにな。そしたらこんな無駄な時間使わなくて済んだのに」 「…トレイル…?、…、ソロ、待ってくれ話を」 「なんの話をするんだよ。……ああ、安心しろよ。俺子供出来ねえから」 「…は、」 「…Ωのくせに子供も産めない欠陥品が運命なんてお前もかわいそうだな。ごめんな、道具にもなれなくて」 薄く骨すら浮き出そうな腹を撫でて紡いだ言葉は嫌になる程重たくて、それを振り払うように俺は軽薄そうに笑って見せた。

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