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04ー7
幼い頃から蓄積された栄養不足に様々な心的ストレス、それらは積もり積もって俺の体をおかしくした。
俺にとってはそれは喜ばしい変化だった。だけどΩにとってその変化は欠陥以外の何ものでも無い。
「…アンタと会うまで俺は発情期 なんて来たことなかった。だから本当驚いたんだよ、不良品のくせにそういう機能は生きてんだなって」
子も成せやしないのにαを欲しがる浅ましい体が嫌いでしょうがなくて体に爪をたてた事は一度や二度では無い。
それに王城にいる間避妊なんて一度もされなかったのに運命であるにも関わらずそんな兆しが欠片もなく薄いままの俺の腹が自分が欠陥品であることを如実に表しているようで思わず笑ってしまった。
「子供が産めないΩに存在価値なんかないもんな?ほら、これでお前が俺と話す理由は消えた。さっさと城に帰って他の優秀なやつ見つけろよ。やんごとないオウサマの血なら欲しがるヤツらが腐るほど、」
バシン、と頬に鈍い痛みが走り気がついた時には壁に肩からぶつかって俺は床に蹲っていた。
「リドリウス…っ、お前なんてことを、」
衝撃で脳が揺れて聴覚が麻痺する。
肩に走る痛みや遠くで聞こえるジイさんの声と、俺の体を抱き起こすアイツの温度に離せと叫びそうになった瞬間低く重たい声が小さな部屋に落ちた。
「…君が君自身をそこまで追い詰めてどうする。そこまで自分を傷つけてなんになるんだい、ソロ君」
ジイさんの制止の言葉も聞かずアイツに抱かれたままの俺の目の前でしゃがみ、見た事がない顔をしたリドさんがじっと俺を品定めするように見ていた。
それが、その目線が、獅子の国で俺が貴族たちに見られていたものと重なり心が一気に憎悪で染まる。
「…お前らが、そうさせたんだろうが」
怒りや悲しみややるせなさで目の前が歪む。
冷静な、いつも通りの自分なら押し殺せていた筈の感情が面白いぐらいに溢れ出して思考すら奪っていく。
「お前らみたいな貴族に媚びて、殴られても蹴られても無理やり笑って靴でもなんでも舐めて、そうしねえと生きられないようにしたのはてめえらじゃねえか!ゴミ屑、虫ケラ、クソ、これが俺がガキの頃の名前だよ。なあ、そんな状況でどうやって自分を大事に出来たってんだよ。俺はどうやって俺を大事にしたら良かったんだよ」
食ってかかるように言葉を投げつけ睨む俺をその時リドさんがどんな目で見ていたかなんてわからなかった。
溢れ出す暗い感情に歯止めが効かず、言いたくない事までどんどん溢れてしまう。それが嫌で、ただでさせ惨めなのにこれ以上惨めな姿を晒したくないという俺のちっぽけな矜恃が頭の中で吠えていた。
「…俺なんて、生まれなきゃ良かったんだ」
俺には昔から一つだけ得意な事があった。
感情が匂いや音で少しだけわかるという、そんな特技だ。
だから今俺を中心に渦を巻くように広がる感情の匂いがあまりに重たくて、悲しくて、辛くて、こんな思いを俺がさせてるなら、それは本当に嫌な事だなと思ったんだ。
「…頼むからそんな事言わないでくれ」
力なく項垂れる俺を抱きしめた男から流れる悲しい匂いに、俺は胸が締め付けられる。
どうして今になって、こいつからこんな匂いを感じるんだ。
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