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04ー9

子供のように声を上げて泣く俺を見て戸惑いの匂いが強くなった。 俺の呪いは初めてちゃんと聞けたであろうアイツの本心に歓喜で泣き叫ぶ、嬉しいと、これで一つになれると、そう叫んでいた。 だけど、そんな簡単なものじゃないのだと俺は声の限りに叫んだ。 「ふざけんな!!!」 怒号と共に喉に鋭い痛みが走り俺は思わず咳き込んだ。 声に気がついたのか下の部屋で寝ているジイさんが起きたのか階段を上がる音がするが、そんな事も気にせず俺は叫び続ける。 「今更ふざけんな!!お前俺に何したかわかってんのかよ、わかってねえよな?謝ればそれで済むって思ってるよな!!?」 「ちが、」 「違わねえんだよクソ野郎!!!」 掴んだ枕を思い切り投げつけるとそれはアイツに当たって床に落ちる。 部屋には俺が呼吸を荒くする音が響いた。 「、お前ら、おかしいよ。お前もトレイルも、リドさんも、…俺がスラム育ちのΩだから何しても平気だとでも思ったのかよ。弱者の生き方が染み付いてるらしいもんなあ?、その通りだよ!!」 今度は手元にあった本を思い切り投げつける。 いつの間にか開いていた扉から現れたジイさんが止めようとするがアイツが片手でそれを止めて、本はそれを防ごうともしないアイツに当たって落ちていく。 その姿に余計に俺は腹が立った。 心が相反する感情でぐちゃぐちゃで、嬉しいと思うΩの本能と俺の憎悪が体の中でぶつかり合う。 頭がおかしくなりそうな感覚に俺は頭を掻き毟る。 その様子が異様にでも映ったのだろう、止めようと近づいてくるアイツに俺は近づくなとまた叫んでいた。 背中に嫌な汗をびっしりかいて、牙を剥き出しにして威嚇する俺を見るアイツとジイさんが俺にはもう敵に見えた。 「…お前らにはそんなつもりなかったんだろうけどな、俺にはわかるんだよ。お前らみたいに生まれた環境がイージーモードな奴らは無意識に俺らみたいなヤツを見下してる。だからあんな事が出来るんだよ。なあオウジサマ、質問してやるよ」 脳裏に浮かぶのはコイツと初めて会った日だ。 煌びやかで、この世の贅の限りを尽くしたような装飾と食事と人がいたあの空間。見るもの全てが輝いていた上流階級のヤツらしかいる事が許されないあの場所。 あの中で異質だったのは俺だけだった。 「俺が貴族でも同じ事出来たか?」 答えなんてわかってる。できるはずが無いのだ、そんなのわかっている。 けれどそうでも言わなければ俺はコイツらを自分の視界から消す事が出来なかった。 無言のままどう答えるべきか悩んでいるらしいアイツを見ていれば不意に窓に人影が写った。 「できる訳ないじゃーん」 とん、と軽い調子で窓から部屋に入ってきた人物を見て目を見開き、そしてまた心臓が軋み出す。 「…トレイル、」 「はいはい、とりあえずあんたらは部屋から出る。今日これ以上やったって無理無理。そこのちびっこ達も寝ちゃいなー」 「お前、何を」 艶やかなオレンジの髪を靡かせながら我関せずと言った風に手を叩き笑みすら浮かべているトレイルの姿にアイツもジイさんも目を丸くしていた。誰もが状況について行けず困惑する中でただ一人トレイルだけは笑う。 「いいから黙って城に帰れクソ王子。ソルフィさんも暫く宰相閣下のとこ行っててくださーい。あなた方みたいに根っから貴族の人にはコイツのことなんかわかりゃしないよ」 くるりと優雅とすら思える仕草で振り返ったトレイルは笑みを潜めて俺を見た。 「じゃ、また明日ね」 呆然とする俺を置いて、彼は部屋から殆ど無理矢理人を追い出して扉を閉めた。 気配はあるが静寂が戻った空間に息を吐いてベッドに倒れ込んだ。

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