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04ー14

俺が話を聞くと判断したらしいトレイルはそっと顔を上げる。少し赤くなった額と乱れた長いオレンジの髪がトレイルの顔に掛かってコイツがどんな勢いで額を打ち付けたのか想像して少し笑ってしまった。 それに今度はトレイルがむっと表情を顰めるが数秒後にはやれやれと言わんばかりに息を吐いて顔に掛かった髪を後ろにかき上げて、その時に額に触れたのかぴくりと指先が震えていた。 「…孤児ってマジ?」 「いくらボクでも嘘でそういうの言いませーん。本当だよ。多分レベル的にはソロ君と同じくらいの孤児」 小さく息を吐いて髪を整え終わったトレイルがじっと俺を見る。眉を八の字に下げて苦笑する様にして告げられた言葉に俺は目を丸くした。 「…見えないでしょ?」 その問いかけに素直に頷いた俺に満足そうに頷いて得意そうに笑って見せるトレイルはとうに冷めてしまった紅茶のカップを持つと音も立てずに一口飲んだ。 その仕草すらもとてもソイツが過去同じ境遇だったとは思えず訝しげに目を顰めてしまう。 「少なくとも生まれも育ちも平民以上だったらソロ君を外から投げ込まないよ。…外見はそれらしく見えるように頑張ってんの」 「…じゃあお前も獅子の国から来たのか…?」 ふ、と口元だけで綺麗に笑って見せるトレイルはゆっくりと首を横に振って見せた。 「生まれも育ちも虎の国。イチちゃんとニイ君と同じ」 そっとカップを置いて告げられた問い掛けの答えに俺はうまく理解出来ず首を傾げていた。 「……スラムみたいなとこでもあんの?」 「今は無いよ。昔はあったけどね、ここら辺もそうだったしー。それにボクここの出身だし。まあ覚えてる限り最初に居たのがここだから多分、って言い方になるけど」 豊かな土地に綺麗な水、働き口も学校だってあるこの場所がスラムと似たような場所だっただなんて俺は信じる事が出来ずずっと眉を寄せていた。 その顔にうんうんと頷くトレイルに目線を向けるとすい、と窓に目線を投げたのを見て俺もつられてそちらを見る。 夜風の中に混ざる城下から漂ういい香りとぽつぽつと見える街の明かり。それを見るトレイルは夜だというのに眩しそうに目を細めていた。 「…ボクだって未だに信じられないよ。いつ死ぬかわからない毎日だったのにさ。…今やボクは王宮勤めだし、子供たちは学校にも行けてる。…すごいよねぇ」 耳をすませば街から賑やかな声が聞こえてきそうな程に静かな夜。細く笑う三日月が明るく照らす世界は、俺が見てきたものとあまりに違っていてどうしたってその言葉を素直に受け止めてきれなかった。 「…何があったんだって思わない?この国がここまで変わるのにかけた時間は十年だよ。たった十年、されど、十年だ」 窓から目線を外したトレイルは今度は俺を見る。背凭れに身体を預けて腹の前で手を組んだ状態でにこりと音がつきそうな程お手本の様な笑顔を顔に貼り付けた。 「ちょっと昔話してもいーい?あ、いい?ありがとー。そうだなぁ、あれはすっごく日照りが続いた日だった…」

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