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04ー15

実際俺の意見なんて欠片も聞かずに語り出すトレイルに溜息を吐くが仕方がないと思い一度座り直す。 先ほどのしおらしい態度はどこにいったんだと独言るがソイツの口から語られるであろうこの国の歩みに俺は興味があった。 死が常に隣にあったあの街とここが一緒だっただなんて俺には信じられなかったかから。 「って言っても、語れるほどの楽しい昔話なんてないんだけどねー」 「おい」 「あはは、ごめんごめん。けどソロ君だって似たようなもんじゃないのー?常に飢えて、渇いて、辛くて暑くて死にそうで。生きるためなら泥水だって啜って土だって食ったでしょ?」 砂って暫く口に残ってめちゃくちゃ不愉快、と言葉を続けたトレイルの笑顔に目を瞬かせた。 どんな状況でも笑みを浮かべ続ける様はきっとコイツが貴族に憧れたからなのだろうと思っていたが、その違和感に漸く気づいた俺は思わず眉を下げてしまった。 「え、ボクそんな辛い話しした?割とあるあるだと思ったんだけど」 「お前、その顔いつからそうなの。貴族の真似してると思ってたけど違うよな」 「えー、どこからそんな話しになったのー?ソロ君も案外人の話聞かないって言うかマイペースだよね」 はあ、とわざとらしい程の溜息を吐いてトレイルは何かを思い出すように目線を横へと流し指を顎に当てて何かを考えていた。 やがてもう一度息を吐くと困ったような顔をして俺を見る。 「これはソロ君の落ち着くための自傷行為と似たようなもんだよ。君は痛みが武器になるでしょ。ボクにとっては笑顔が武器。まあ最初は周りの奴らに殺されないようにするための鎧見たいなもんだったけどさ、ヴァイスが武器にしろって言ってくれたんだ」 「……アイツが?」 「いや本当清々しい程ヴァイスの事嫌だよね、ソロ君。すっごい顔してる」 トレイル曰く武器であり、鎧でもある笑顔をじっと見ながらもその奥にアイツがいると思うと途端に気分が下がる。 けれどトレイルの話に興味もあり俺は無意識に牙を唇に当てるがその時トレイルのいっていた意味がわかりおずおずと牙を収める。その様子にうんうんと満足そうに頷くトレイルの足をテーブルの下で蹴った俺は多分悪くないはずだ。 的確に脛を蹴ったため痛みに悶えるトレイルを見て満足した俺は続きを促すように頬杖をついた。 「…ぁー、本当良い性格してる…。…で、なんだけっけ、あー、ヴァイスの話しか。そうだねー、ボクがアイツに拾われたって話は、してないね。まあボク拾われたんだよ。そこら辺で野垂れ死にしそうなところを」 そう言って適当に窓の外を指差して紅茶を一口。 俺と同じような街で育ったなら野垂れ死ぬというのは理解に難くないが、そこを仮にも一国の王子に拾われる経緯が全く理解できずに俺はますます眉間の皺を深く刻む。 「ヴァイスはさー、城の中じゃ結構ガッチガチに嫌われてるから外に出やすかったんじゃない?死神とか悪魔とか言われてるけどボクからしてみたらアルヴァロ様やそのご両親の方がよっぽど…、あー、話が逸れた。まあ、そこらへんで出会ったんだよ、今よりも更に生意気なクソ王子様と。で、拾われたんだよねえー」 「え、そんだけ?」 「正直意識朦朧としててやけに白いのが居たくらいしか覚えてない。あ、でも目が覚めた時は驚いたよー。天国にいるのかと思ったからさぁ」 暗い話なのか明るい話なのかわからないトレイルの口調や言葉選びに少し混乱しながらも俺はいつの間にかトレイルの話を夢中で聞いていた。 アイツの名前が何度も出て、むしろ殆どアイツの話なのに最後まで聞くことが出来たのはトレイルのおかげだろうなと、話を聴き終えた俺は机に突っ伏して唸っていた。 夜はとっぷりと更けていき、少しだけ聞こえていた街の音も今はもうしない。 それは今が深夜にあたる時間なのだと知らせていた。

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