60 / 155
04ー16
「ボクはさ、どう足掻いたってヴァイスが一番なんだよ。雇い主ってのもあるけど友達だからさ。あっちがどう思ってるかなんて知らないけどー」
話しが終わりお互いもう寝るか、となって椅子から体を離して立ち上がり扉を通ろうとした間際に耳に届いた言葉に立ち止まって振り返る。
「でもソロ君の事も結構好きなんだよ、ボク。で、正直に言えばヴァイスたちに言った君の言葉にはスカッとしたしその通りだって思う。見た目はうまく取り繕ってるけどボク根っこは君とおんなじだからさ」
貴族って腹立つよねえと間延びした口調と緩い笑顔で続けられる言葉に微かに滲む怒りの気配に扉に掛けた手を離してトレイルに向き直ると、しっかりと俺を見る目と視線がかち合った。
「これはボクからの提案。ヴァイスに会ってみない?」
「は?無理」
「あはー、即答だー。でも嫌ではないんだ?」
揚げ足をとる様に続けられた言葉にぐっと眉を寄せた俺はトレイルを睨む事はすれど逃げる事はしなかった。
それに息を吐いて安堵する様子を隠そうともしないトレイルにまたしても毒気を抜かれながら続きを促す様に壁に寄り掛かった。
「もちろんボクも居る。けどボクは一度二人でちゃんと話すべきだって思ってる。お互いが離れられないって理解しているなら尚更」
ぎゅ、と唇を噛んでその言葉の意味を噛み砕いて理解する。やっぱりこいうところが苦手だと思いながら、それでもその言葉が当たっている分俺は何も言い返せなかった。
「ボクはソロ君にヴァイスの事を知って欲しい。その上で嫌ってやって。…まあ、ソロ君が勇気を出してそうしようとしてくれたのにぶち壊したのはボク達なんだけどさ」
は、と息を漏らす様に苦笑したトレイルを見て俺もまた胸の内に広がる苦味に顔を顰めていた。
思い出すだけでどうしようもなく辛くなる鮮明な記憶に乱れ出した呼吸。それを抑える為に腕に軽く爪を立てて冷静さを取り戻すと俺は口を開く。
「…考えさせて」
「…そう言ってくれるだけすごく嬉しいよ。ありがとう」
その言葉に小さく頷き俺は部屋を後にした。
会いたくないが、このままだと気持ち悪いままだと理解をしている自分がいて自分のために一度会った方がいいのか、それとも、と考えが纏まらないまま俺はベッドに横になりそのまま眠りへと落ちていく。
「…神様、いるならどうにかしてよー」
部屋に一人残ったトレイルは祈る様に両手を合わせてそこに額を押し付ける。
吐息の様に紡がれた言葉は静かな空気に吸い込まれ、誰かの耳に届く事はなかった。
ただいもしない神に祈りを捧げたくなる程、彼もまたヒトを思うヒトだった。
ともだちにシェアしよう!