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05ー3
子供たちがいる時は自然と交わす言葉の量も見せる表情の量も多くなった。
だからそれで色々と気づけた事がある。
子供に好かれやすいだとか、人を馬鹿にしたような笑い方としかめっ面以外の表情があったんだとか、意外と感情が尻尾と耳に出やすいだとか、そういうの。
その姿は俺が見てきたソイツとはかけ離れていて、正直戸惑ってしまう。
王族が城から離れた庶民の家の庭で服が汚れるのも気にせずに孤児の子供と戯れている光景は俺からしたら有り得ないものだった。
けれど石畳の続く賑やかな街の住人たちはソイツが王族だと知っていて、それでも殆どのヒトが態度を変える事なく気さくに、それこそ家族のようにアイツを迎え入れて話しかけている時がある。アイツは、俺から見ても愛されているヒトだった。
そしてそれを受け入れ、尊大に振る舞うことはあれど傲慢さはなく対等に街のヒトと接していたアイツは側から見れば優しい貴族なのだろう。
だからこそ俺はずっと自分の中で言いようのない感情を持て余していた。
白が黒く塗りつぶされて行くようなそんな苦しみが会うごとに内側から広がり掻き乱していく。
なぜ俺だけあんな扱いを受けたのだろうか。
以前聞かされた言葉では俺はどうしても納得できなかった。
納得したところで先がどうなるかも、俺の中でのアイツがどう変わるのかも分からない。
ただ過去アイツに受けた傷や思いはきっと一生消えないだろうし、俺はそれを見る度にあのヒトをヒトとも思わない目を思い出して心臓を軋ませるのだろう。
「…どうした?」
腕を伸ばしても届かない距離、静かに問いかけてくる声に揺れる尻尾。
以前は嫌でも肌を合わせて全てを否定し傷つけてくるだけだった男ととても同じヒトとは思えないその様子に俺は小さく首を振る。
「なんでもない。見るなよクソ野郎」
「……お前のトモダチは口が悪いな」
「それはジゴージトクだってトレイルが言ってたぞオウジサマ」
「…アイツ…」
座った俺の膝に乗り背中を預けてくるニイが真顔で吐き出した台詞に対して言葉に詰まるところを見るとどうやらその自覚はあるらしい。
でも、だからなんだと言うのだろう。
笑って会話することも増えた、顔を合わせる回数も増えた、だからと言ってコイツを許せる訳ではないのだ。
物理的な距離が縮まって行く度に心の距離が離れて行く。それなのに本能が体の中で歓喜に震えるのだから俺は思わず笑ってしまった。
それにニイは不思議そうに俺を見上げていたがなんでもない、と言う風に首を横に降ってみせた。
けれどアイツは俺の笑みに気が付いたのだろう。しかめっ面とはまた違う、何かを耐える様に唇を噛んで目を細めるその顔から俺は目を逸らした。
許さなくてもいい、憎んでくれてもいい、そうトレイルは言っていた。
確かに許せそうにも無いし、きっとこれから先ずっとこの重たい感情は俺の中に根付いて行くのだろう。
俺はそれでいい。でも、アイツはどうなのだろうか。
答えのない疑問がポス、と俺の胸に落ちてきた。
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