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05ー7

ここでいつもの様に子供たちが来てくれたならこんな訳の分からない空気をぶち壊すことができるのに。 有耶無耶にして、なかった事にしてしまえば。 そう思考した途端俺は自分で自分の口を押さえた。 胃の中から何かが迫り上がって来て言いようの無い気持ち悪さに蹲る。 「ソロ…っ」 一瞬の躊躇もなく土を蹴り俺の側に寄ろうとしたアイツを見て俺は反射的に叫んでいた。 「来るな!」 その言葉にピタリと足を止めたがソイツは以前の様にどうしたらいいか分からない様な途方に暮れた顔はしなかった。 何かを吹っ切った様な、覚悟をした様なそんな顔に俺はまた自分の腹の中がぐちゃぐちゃになる様な感覚がして顔をくしゃりと歪めた。 「なんで、なんでお前がそんな顔するんだよ…!」 見下すわけでも品定めをする訳でもない、真っ直ぐな目が俺を見ていた。 違う、違うと俺の頭が今目の前にいる男を否定する。俺が知っているのは俺を見下して傷つけた貴族の典型の様な男であって、こんな目をするヤツじゃない。 「っは、…こんなの、呪いだ。なんで、なんで…」 アイツがしゃがむ気配がして、余計に距離が縮まった。 手を伸ばせば触れられる距離にいるのに互いに手を伸ばそうとはしなかった。 「…俺もこれは呪いだと思う。手離したくても、お前が惜しくて手離せなかった」 「…やめろ」 「俺から逃してやりたかった。…だが無理だった」 「、やめろってば」 紡がれる言葉を聞きたくないと首を横に振る。けれどそんな事をしても意味はなくて、アイツの言葉は驚くほどすんなりと俺の耳に入ってくる。 いつの間にか吐き気は収まり口からは荒い呼吸が漏れた。 どうして、こんなにもコイツの言葉を拒絶するのだろう。 理由なんて簡単だ、された事を思い出せ、と頭の中で俺が言う。 痛い事もされた、死にかけた、何度も何度も傷付けられた、だから俺がコイツを許すことはおかしいんだ。 あんな事され続けたのに許すわけにはいかない、そんなのおかしい。 どうしてコイツだけが、許されるんだ。 「確かに俺たちが惹かれ合うのは運命の番の力のせいだ。そうでなければ俺とお前が交わる事なんてなかっただろうしな。だが、」 低く落ち着いた声がどんどん俺の中に落ちてくる。 聞きたくなんてないのに俺の体はその場から動き出す事もできなかった。 「俺の番はお前だ」 「……、嫌だ」 ドクンと心臓が大きな音をたてた。 「…ソロ…?」 ぐらりと体が大きく傾いて横倒れに地面に倒れそうになるが俺の体は今度こそアイツの腕の中に収まった。 離せと言いたいのに体が言う事を効かず内側から押さえきれない熱が広がって行くのを感じた。 荒くなる呼吸に敏感になって行く感覚に俺は目の前が真っ暗になった様な気がした。 「…やだ、嫌だ…っ、なんで、もう嫌だ、こんな体いらない、嫌だ、嫌だ…っ」 小さな子供の様に嫌だと繰り返す俺を抱き抱えたアイツが立ち上がる。 腕の中に収まったまま家から遠ざかる様に歩き出した事に暴れ出す。 「は、なせ…っ!嫌だ、嫌なんだってば!」 「…子供にどう説明するつもりだ」 その言葉に体が大きく跳ね、暴れる事をピタリと止める。 「……アイツらに、見られたくない」 蚊の鳴く様な声で呟いた言葉はしっかりとアイツの耳に届いて、微かに頷いたのがわかった。 こうしているうちにもどんどん体の熱は溜まって行く。どうしてこんな事になるんだと、泣きそうなのを必死に堪えながら自分の唇を噛んでいた。 「子供のことはトレイルに任せる。だから安心していい」 遠ざかって行く家を見ながら聞こえる言葉に俺は何も返せなかった。 安心なんてできない。出来るはずがなかった。

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