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05ー8
嗅いだことのある香りが鼻腔を擽った。
沢山の花と、清潔な空気と、そして沢山の人の匂い。発情期 で意識が朦朧とする中でも嗅覚は鋭敏なままで、ここが王城なのだということが理解できた。
頭上で誰かが話しているのが聞こえる。だけどそれが何を意味しているのか全く理解ができずただの音として耳に届く。
聞いたことのある声の様な気がするが今の俺にはそれを考える余裕なんて何もなかった。
ただΩの本能が早く早くと告げている。俺の意思なんて関係なく俺を抱き抱えている男を欲して理性を剥ぎ取って行く。
それが嫌で嫌で仕方がなくて自分の腕に思い切り噛み付いた。
「、ソロ、やめろ」
他のヒトの声は聞こえないのにアイツの声だけはしっかりと聞こえる。
酷く焦った様な声だがそんなの知らないとばかりに俺は少しでも自我を保とうと血が滲んでも腕を噛む事をやめなかった。
頭上で舌打ちが聞こえて今まで比較的ゆっくりだった歩調が急いだものへと変わる。
痛みと自分の血の匂いで幾分か冷静さを取り戻すがそれで体の熱が治る訳もなく冷静になった分自分の今の状況が理解できて悔しさと虚しさで心に穴が空いて行く様な来さえした。
ガチャンとどこかの部屋の扉を蹴破ってアイツが俺をベッドに寝かせる。途端に俺を包む様に広がった匂いに目を見開きがむしゃらに暴れ出した。
腕から口を離して今度は逆側を噛もうとするとアイツが俺の動きを拘束する。
「ソロ、噛むな」
「、嫌だ、こうしないとおかしくなる。あんなの嫌なんだよ…!」
俺を包む様に広がった甘い匂いはコイツのもので、ここはアイツの部屋で、そう思うと嫌な記憶がどんどん引き摺り出され行く。
ひゅっと喉がなり呼吸が苦しくなるがそれでも体は熱いままで、何一つ自分の思い通りにならない自分の体が情けなくて涙が溢れた。
「……ソロ、大丈夫だ。何もしない」
「嘘だ、そんなの嘘だ!俺、何回も嫌だって言った、でもお前はやめてくれなかった!」
「ソロ」
「呼ぶな!」
パニックを起こした様に暴れる俺を難なく押さえ込む男が憎らしくてしょうがなかった。
どうして、なんで、とこの男に会ってから幾度となく繰り返された言葉が胸の中をぐるぐると周り俺の心を締め付ける。
「…、離して」
「…すまない」
絞り出す様に紡がれた言葉につう、と涙が頬を伝って零れ落ちた。
離してくれないならいっその事めちゃくちゃにしてほしい、そうすれば今度こそコイツのことを嫌いになれる気がした。付け込まれる隙がないほど、手が届かない距離での会話がほんの少しでも楽しかったと、心地良かったと思えないほどに嫌える気がした。
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