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05ー12
たかが首を噛まれるだけ。それだけで誰かの言いなりになってしまうΩという性が大嫌いだった。
ただ俺はΩとして不良品だから番だとかなんだとか、そういうものとは無縁だって勝手に決めつけていたしそうであれと願っていた。
それなのに俺には運命の番だなんていうふざけたヤツがいて、そいつはとんでもないクソ野郎で、こんなヤツと一生一緒にいるなんて冗談じゃないと死んだほうがマシだと本当に思っていた。
アイツだってそう思っている筈なんだ。俺みたいな劣等種が王族の番でなんてある筈がない。そんな馬鹿げたことあるはずがないし、あっていいはずもない。
そうであってくれないと、俺は俺がわからなくなる。
だから番なんていらなかったし、一生一人いいと思っていた。
そうじゃないと、俺が嫌だったんだ。
俺は一人がいい、大切なヒトなんて作りたくない。もう、裏切られるのも、失うのもうんざりだ。
だから、頸を噛まれることなんてどうでもいい筈だった。
噛まれたとしても逃げればいい。しかも噛まれたら発情期 は来なくなる、俺にとっては至れり尽せりのはずなのに。
それでも体はコイツじゃないと叫んでいた。
「――ッ!!ぁ"、い…、」
ガリ、と骨を削る様な痛みが走り口からは呻き声が漏れて一気に呼吸が荒くなる。
言い様のない激痛に噴き出した汗が顎を伝って落ちて行った。
熱を持ち、そこから先の感覚が一切ない。食い千切られたのかと思う程の痛みと熱に支配されて、まるでそこに心臓があるかの様に脈打っている気さえした。
滴る赤は俺の肌や服を濡らし、アイツの口も汚している事だろう。
ヒュ、ヒュ、と風のなる様な音を喉から漏らしながら赤く汚れた口を落ち着いた動作で拭くソイツを睨み付ける。
「……確実に頸を噛んだと思ったんだけどなぁ」
一切の感情が伝わらない声で紡がれた言葉にまた背筋が粟立つ。
アルヴァロの目は俺の手に注がれていた。
噛まれると思ったあの一瞬、自分でも理解出来ないままに動き両手を後ろに回しそこを守る様に押さえていた。
その結果俺の手は血塗れで、部屋の中には鉄の匂いが広がった。
「…でも、それを噛み千切ればもう抵抗出来ないね?」
未だにアルヴァロの腕の中に囚われている俺は目を見開き、あまりに現実的じゃない言葉に咄嗟に言葉が出てこなかった。
「プロテクターも着けずに発情期 の名残を撒き散らすΩなんて噛まれたってしょうがないよね?ヴァイスも本当に馬鹿だ。私はちゃんと言ったんだよ?さっさと番になっていれば良かったのにって」
首を守っているせいで両手が使えず、痛みでまともに動けない体は簡単にアルヴァロに抱き竦められた。
恐怖で震える俺に少し気分を良くしたのか耳元で甘言の様に囁かれる音に俺は抗う様に睨み付ける。奥歯がガチッと鳴って声が震えた。
「……余計なお世話なんだよ、このブラコン野郎…!」
感情の読めないアルヴァロがより一層深い笑みを浮かべ片手で俺の頭を掴んだ。
手を剥がそうとしない辺りに狂気を感じながら俺はくるであろう痛みに目を固く閉じて構えた時だった。
派手な音を立てて窓が割れ、目に殺気を宿した白い虎が現れたのは。
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