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05ー14

最近気絶する事が多いな。 目が覚めた俺はぼんやりとそう思った。 「……手。あ、あった」 じくじくと熱を持ち結構な痛みを訴えて来る箇所に目を向けると、これでもかというほど包帯は巻かれているものの一本も欠損していない自分の手があり少しだけ安堵した。 はあ、と大きく息を吐いて目線をまた天井に戻すと部屋の中に自分以外の匂いがする事に気がついた。 「…何見てんだよ、クソ野郎…」 そのままの体勢で声を出すと思いの外掠れた弱々しいものが出てしまい自分にまた溜息を吐く。 するとあの庭と同じ様な距離を持って俺を見ていたアイツが何かを言おうとして口を噤んだのが気配でわかり仕方なく目線を向ける。 「……言いたい事あるなら言えってば。俺今こんなだし、逃げらんねえし。ムカつくけどお前に助けられた借りもあるし」 「…痛みは、」 「噛まれたときは千切れたって思った。でも千切れてねえから平気。ほっときゃ治る」 「傷が、」 「女じゃねえんだから傷が残ろうがなんだろうが気にしねえ」 そうか、と力なく呟いたアイツの耳と尻尾が面白いくらいに気落ちした様に垂れていて、その様子に苛つくでも面白がるでも無く、また自分でも知らない感情がゆっくりと落ちてきた。 「…あの虎、お前?」 そう話しかけると一瞬目線を上げたアイツと目が合うがそれはすぐに逸らされた。 「ああ」 「…今もなれんの?」 獣人といえど完全に獣になれるヤツは今となっては激減してしまっている。大昔、それこそ御伽噺の話が現実だったときにはそうできるのが一般的だったらしい。 その問い掛けに少し間を開けた後に頷いたのを見てから俺は何の気無しに呟いた。 「なって」 「…は、」 「虎、なって」 繰り返し、今度ははっきりと告げると目を丸くしたアイツと視線がかち合った。明らかに困惑している様子に俺はイラついた様に尻尾でシーツを叩く。 「…怖くないのか」 「アルの方が怖え」 間髪入れずに答えた俺に言葉を詰まらせ未だ困惑したままのソイツを見ていれば、やがて観念したかの様に息を吐いて椅子から立ち上がり徐に服を脱ぎ出した。 「…誤解するなよ。脱がねえと服が裂ける」 明らかに構えた俺に低く告げたアイツの言葉に納得した俺は小さく頷いた。あっち向いてろ、と声がして大人しく天井を見ていれば衣擦れの音が止み代わりに少しだけ獣の匂いが強くなった。 ふん、という鼻の鳴る音がしてそちらを見ると大きな白い虎がそこに居た。 本来獣としての性分が強い俺たちは強いものには無意識に畏怖の念を覚える。身体が強張ったり、恐怖で意識が飛んだりする事もある。 虎なんかはその頂点にいて、狐である俺は本当ならびびって何も出来なくなる筈なのに一欠片もそれを怖いとは思わなかった。 「…、」 グル、と喉を鳴らして様子を伺う虎に手を伸ばす。 だけど距離が遠くて指先が触れることはなくて、それがほんの少しだけ嫌だった。 「……」 互いに無言のまま数秒が過ぎた時、アイツの前足がおずおずと進みだす。酷くゆっくりと俺に近付いた虎は伸ばされた手に微かに鼻を擦り付ける。 噛まれた傷が痛んだが、包帯が巻かれていない部分に少しだけ温もりが触れて俺は無意識に笑っていた。

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