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05ー15
トレイルは複雑そうな顔で笑って首を傾げていた。
「…これって、どういう状況?」
「見ての通り」
「いや、見ての通りって…」
城にやってきて五日が経った。発情期 が完全に治るまであと二日は家に帰る事もできずまた両手に巻かれた包帯の説明をどうするかも悩ましいところではあった。
城にいる医者曰くあと二日経てばここまで大袈裟な包帯じゃなくてもよくなるとの事だったので、それまではここにいる事にした。
それで、今俺がいるのはアイツの部屋でベッドの上だったりする。
Ωの不良品である俺が安定して一週間もそんな状態になる事はなく、始めの日が辛いだけであとは少し熱っぽいというだけだった。その状態だと気に食わないがアイツの匂いがある場所の方が落ち着けるということがわかってしまったのだ。
だから俺は今アイツのベッドにいて本を読みながらもふもふに背を預けていた。
「…それ、ヴァイスでしょ…?」
「うん」
「…えー…、ぇ、えー…?まって、理解が追いつかな、えー…?」
俺の背もたれとなっている大きな白い虎はベッドに座り前足に顎を乗せて目を閉じていた。
その様子を見て鼻筋を手が痛まない程度に指先で撫でてやればぐる、と喉を鳴らして擦り寄ってくる。それに笑みを深めているとトレイルが信じられないものを見るかの様に目を見開いていた。
「すごい顔だな」
「いやそりゃすごい顔もするでしょ!?え、な、何があったのー?変なもん食べたとか、頭打ったとか、」
明らかに狼狽えて俺と虎を交互に見るトレイルにガウ、と低い声で余計なことを言うなとでも伝える様に軽く吠えた姿にトレイルは大きな溜息を吐いて肩を竦めて見せた。
「…あー、はいはい、わかりましたよ。だけど本当にびっくりだよ。その、ソロ君は大丈夫なわけ…?」
俺のコイツに対する態度や発作的なものを知っているトレイルからしたらこの状況が信じられないのは当たり前で、その混乱もわかるため説明をしようと居住まいを正そうとするがそれは白いふかふかの尻尾に阻まれてしまった為溜息を吐いて諦めた。
その様子に顎が外れそうなほど口を開けたトレイルに苦笑して口を開く。
「…こっちなら平気なんだよ。触るのも、触られんのも」
俺には決して吠えることのない虎が喉を控えめに鳴らして俺を見る。
獣になればきっと感情の出方もストレートになるのだろう、俺を写す目や匂いからは嫌な感じが一切せずむしろ安らぎすら感じていた。
「ちゃんとコイツがあのクソ野郎だって事は認識してる。なのにヒトの時はまだ無理なんだよなぁ。見るのも声聞くのも体が勝手に警戒して、緊張して、震え止まんねえし勝手に泣きそうになるしで散々。…変だよなぁ」
呟いた言葉に大きな虎の耳がしゅんと垂れるのを見て俺は頭を撫でる。
けれどそれに虎が何か反応するでもなく、それを見ていたトレイルもまた複雑そうに表情を歪めるだけだった。
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