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05ー16

それから、俺はただ虎の姿のアイツと過ごした。 時折ヒトに戻った気配はしていたがそれは俺が眠っている時であったり、アイツが部屋からいなくなる時だけ。 それ以外の時間、アイツは全て虎の姿で俺の側にいた。 どうしようもない熱に襲われる事もなければアイツの匂いに包まれた所で狂う事もない。ただ俺を包む様に広がるアイツの匂いが、寄り添う様にして俺の側にいるその温もりが心地良くてずっと体を預けていた。 六日目の夜、なんだか寝付けなくて俺はベッドの上でぼんやりと天井や窓の外を眺めていた。 僅かに空いた窓から入る風が心地良いのに眠気は何処かへと旅立ってしまったらしく眠れそうにないなと思いながら夜の闇をぼんやりと眺めている時だった。 グルル、と近い場所で喉のなる音が聞こえた。 顔を横に向けるとうつ伏せのままで目を閉じていたはずのアイツと視線が絡まって俺は目を丸くしたがすぐに思い出した。 「…ネコ科って夜行性だっけ」 その問いかけに虎は小さく頷く。 知能や思考はそのままだが、感情表現の部分や習性などはその獣本来のものに近づくのだと言うことを俺はこの数日で理解していた。 きゅう、と細くなった瞳孔も本来ならば怖がらなければいけないのだろうがやはり俺にはコイツに対する恐怖心なんて一切なくて、大きな体に手を伸ばして顎の下に手を入れて撫でてやれば一瞬驚いた様に体を跳ねさせたがすぐにごろごろと喉を鳴らす様は間違いなく猫で俺は笑ってしまう。 たしたしと尻尾を優雅に揺らしながら俺を見ている紫色の目と視線が再び絡むと俺は顎を撫でるのをやめてその豊かな毛並みに顔を埋める様に体を寄せた。 途端に鼻腔を擽る甘くて優しい香りにやっぱりこの虎はあの男なのだと実感する。 それなのにこうして自分から触れ合ってしまっている事に俺は自嘲気味に笑ってしまう。 コイツはあのクソ野郎なのに、そう理解できている筈なのに俺はこの虎から離れることが出来なかった。 「……本当、お前のこと嫌えたらいいのにな。嫌いな筈なのにな。すげえ嫌なことされたし、血まみれになったし、お前本当クソ野郎なのに。…なのになんで、俺はお前が助けに来てくれた時、安心しちゃったんだろうな」 あの時、アルヴァロに無理矢理頸を噛まれかけた時部屋にコイツの匂いがしただけで俺の体は勝手に安心していた。 運命のせいだと言われたらそれまでだが、俺があの時アルヴァロにあんな口を聞けたのは運命のせいだけじゃない。コイツがいるからもう大丈夫だと、そう思ったからだ。 いつの間に、こんなに絆されていたのだろう。 否、コイツに心を傾けていたのだろう。 運命のせいだと、そう思いたかった。だってその方が楽だからだ。 面倒くさい事は大嫌いだ、本当に嫌いなのに、俺の周りには面倒なことしかない。 「…どうしたらいいんだろうな」 吐いた言葉はあまりに弱々しくて、ぼろぼろで、笑ってしまった。

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