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05ー20
「なあソロ、お前が最も嫌う事はなんだ?儂はな、自分を軽んじられるのが大嫌いだった。プライドが高いと言われても構わん。だが、儂にはその矜恃だけが己の中で唯一誇れるものだった」
生きているだけで丸儲け、そんな考えが根付いている俺にとってジイさんのその言葉はいまいちピンと来ないがそれでも理解する事は出来た。
そして似た様な思いを、多分俺も嫌というほど味わった。
「…運命の番が現れた奇跡のΩ、ほら見ろやはりあいつはΩだった、君は私に愛される為に生まれてきた。今思い出しても虫唾が走る」
ふん、と鼻を鳴らして下らないとでも言うように笑って言葉を続ける。
「…そうして無様にリドリウスに絡めとられた儂は長い間あいつと暮らし、家から出したくないとほざくあいつを黙らせてこの城で働く様になった。…好奇の目や嫉妬の念が凄かったのは薄らと覚えているが、儂にはその頃の記憶があまりない」
「え、」
従者も誰もいない二人だけの部屋でジイさんは喉が渇いたのかゆったりと立ち上がり元々用意していた水差しを持ち、果実水をグラスに注ぐ。
「…あまりにも耐えられなかった。日々、死ぬ事しか考えられなかった。そんな時だ」
アルヴァロ様に助けられたのは、と言葉を続けてグラスを傾けて喉を潤すジイさんを俺は理解出来ないと言ったふうに首を傾げて見ていた。
その様子に目を細め、違うグラスに同じ様に果実水を注いでジイさんはそれを俺に差し出した。
「お前にも覚えがあるんじゃないのか?あの方はヒトをよく見ている」
「…、」
「…儂もそこを狙われた。だが、当時の儂にはそれが唯一の救いだったんだ」
音もなくソファに腰掛けて眉を下げて泣きそうな顔で笑うジイさんは、確かにアイツに救われたのだろう。
ふう、と息を吐きソファに深く座り直したジイさんは少し間を置いてから口を開いた。
「それで城を抜け出して少し経ってからお前に出会った。後はお前と過ごした通りだ」
「…ぇ、それだけ?」
「それだけとはなんだ。運命の番から十年も逃げおおせたΩなんぞ世界中を探しても儂しかおらんぞ」
「…じゃあ、なんで今になって帰って来た訳?」
いつもと変わらない様子を一瞬取り戻したジイさんだが、俺の問い掛けに少しだけ言いづらそうに眉を下げるも覚悟を決めたのか息を吸った。
「…お前が帰って来ないから、心配でな。……それにお前からは知っている匂いがした。だから向かうなら虎の国だろうと思ってな、後を追った」
「…俺のせい…?」
「違う、儂が望んでそうした。ソロの所為では、……何を笑っている」
言いづらそうに、けれど焦った様に普段ではまず無いほどの口調の早さで言葉を紡ぐ姿に口角が上がってしまう。
それと同時に、自分がまた一つ嫌になった。
「…心配されてんの嬉しいなっていうのと、俺が今までどんだけ怖がってたのか再認識してちょっと笑ってる」
アルヴァロの言葉が不意に脳裏を過ぎる。
みんな君を守っていたのにね。
その言葉の意味も、俺はわからないといけなかった。
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