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06ー3

初めてアルと会った時恐怖を感じたのはアイツがとんでもないほど上位のαだとわかったからだ。 それと同時にアイツは俺に対して不愉快そうでもあった。表情こそ柔らかく言葉も甘いものだったがなんの匂いも音もしないアイツはただ恐ろしかった。 それが俺から自分の弟の匂いがするとわかった途端殺気を剥き出しにしたのだから、あの時は凄まじく怖かったが今となれば笑えてしまう。 「最初からアルはお前にしか興味なんてなかったよ。俺の扱い方もお前に対する当てつけじゃね?」 考えなくても理解できるほどアルの行動は顕著だった。 だってあの殺気は明らかに俺に向けられていた。その理由は俺からコイツの匂いがしたからだ。 コイツの匂いが気に食わないんじゃない、コイツの匂いを身に纏った俺が気に食わなかったんだ。 アルの感情の名前を俺は知らない。それはきっとアイツにしかわからないし、この話を聞いた事でコイツとアルにどんな変化が起こるのかも俺にはわからない。 伝えない方がお互いの為だったのかとも思うが、散々振り回されてぼろぼろにされたこっちとしては悩み苦しめと思ったところでバチは当たらないと思うのだ。 「あれ多分お前のこと好きすぎてああなってるだけだよ」 「……、」 「尻尾すげえな」 ブワッと毛が逆立ちブラシのようになってしまったいつもはふかふかの尻尾を見て眉をよせる。 「で、どうよ」 「…なにがだ」 「今まで怖くて面倒で得体が知れないけどどうしても嫌いになれない奴から実は好かれてるかもって思った気持ち」 「……」 クッと目を開いたかと思えば苦しそうに眉を寄せて目を閉じる。未だに尻尾はブラシのように膨らんでいて、耳は力なく垂れていた。 「気持ち悪いだろ。少なくとも俺はそうだったよ。どの面下げて惚れたとか抜かしてんだとも思った。でもな、嫌いになれないんだよ」 ヨイショ、となんともじじ臭い声と共に上半身を起こして首を回して骨を鳴らす。 コキン、と言う小気味のいい音が鳴ってそれでもまだ立ち竦むヤツに目線を送ればやっぱり俺なんかよりずっと死にそうな顔をしていて、笑ってしまうのだ。 「同じ感覚が共有できて何より。でも逃げたりしねえからさ、長期戦になることだけ覚悟しとけよ。俺はジイさんとリドさんんみたいにすんなりとはいかねえぞ」 「お前は、」 「ん?」 日も暮れ出した秋の頃、流石に寒くなって来て家に帰ろうと立ち上がった時にかけられた言葉に思わず首を傾げる。 「どうして笑っていられる。俺がした事は、一生をかけても許される事じゃない。それなのに」 「……そうだなぁ」 オレンジと赤が混ざる空を見上げて少し考える。 答えなんてあってないようなものだが、あえて言葉をつけるとしたなら。 「今の自分が嫌いなだけ」 目を瞬かせるソイツを置いて俺は手を振り家に帰る為の道を歩き出した。 「…あ、」 少ししたから手を見ると、その手は以前より震えが弱くなっておりそのことに俺は小さくガッツポーズをするのだった。

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