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06ー8
少し癖のある黒髪は綺麗にアップにされて、幼さの残る顔に似合う様にとフリルがふんだんにあしらわれたパステルカラーのドレスを着たイチはどこからどう見ても最高級に可愛いお姫様だった。
「…すごい、すごいすごーい!ドレスきらきらしてて、妖精さんみたいだねぇっ」
「私には黒猫ちゃんが妖精に見えるわよ。んん〜っ、ベリキュッ!」
対してニイは膝丈のタキシードを見に纏うが初めて着る高級な素材にあからさまに緊張して身体を硬直させて居るが、鏡に映る自分を見て満更でもないのか角度を変えながら自分を眺め尻尾を揺らす。
文句なしに可愛い。
「……やべえ」
「やばやばのやばよ〜っ!白猫くんもとってもいいわぁっ、ベリグッ!」
それに比べて俺は何処かで見たことのある様な格好をしていた。
これは着た事がある。感触も動きやすさも凄く覚えている。無駄に肌触りは良いが草食の少ない白を基調とした給仕服、使用人の格好がなんとなく様になっていた。
「似合ってるわよっ!胸張って頂戴狐ボーイ!」
「おい待て招待じゃねえのかよ。なんで給仕服?」
「あらぁ私ったらいっけなーい!招待はそこの猫ちゃんズであなたはオ・マ・ケ!」
バチコーンと風が起こりそうなほどの重量感のあるウィンクをかまされて俺は頬が引きつるのを感じたがまあいい、と息を吐く。
給仕服を着せられたと言うことはパーティーには入れる、つまり子供たちから目を離さないでいられるとい事だ。それに安堵しもう一度息を吐くと見るからにはしゃいでる二人を見て自然と頬が緩んでしまう。可愛いなあとデレデレしながら見ていれば不審者が意外そうに声を上げた。
「てっきり俺にもいい服着せろとか言い出すかと思ってたけど、あなた欲が無いのね」
「んなもんあったって腹の足しにもなりゃしねえからな。そういうのは余裕があって生きる事以外に必死になれるもんがある奴が持つもんだよ。…で、不審者さん、ちょっと来い。お前らー、絶対そこから動くなよ。やばいと思ったら大声出せよ。いいな」
「はーい」
不審者と呼ばれた男が口をあんぐり開けて心外という顔を作っていたが俺にはそんな事は一切関係ないため、子供たちにしっかりと言い聞かせてから顎で扉の外を示せば二人で部屋からでる。扉は僅かに開けて中の気配を感じつつ俺は口を開こうとするがそれよりも先に男が矢の様な速さで喋り出した。
「ちょっと、誰が不審者よ!こんな素敵なレディを捕まえておいてほんっと失礼だわ〜っ!いい、私にはレディ・メルローって名前があんのよ。しっかり覚えておきなさい狐ボーイ!」
「うるせえ不審者。で、マジでただの招待なんだろうな。子供たちになんかあったらマジで許さねえぞ」
「…さっきあなたの鼻で確認したでしょ?あれが証拠よ」
「………」
押し黙る俺を見てふう、と疲れた様に息を吐いて小さく首を振る男はそのまま肩を竦めて見せた。
「本当にただのラッキーよ。この国ではたまにこういう夢のあるサプライズを子供限定でするの。そうじゃなきゃこんな流れるみたいに準備が整う訳ないでしょう?さ、次は簡単御行儀レッスンよ!猫ちゃんズに恥はかかせられないわっ」
「あ、おいっ」
言うだけ言って部屋に戻ってしまった男を慌てて追いかけ、レッスンと聞いて元気よく返事をする子供たちを見ると俺は何も言えなくなってしまう。
耳に届く音でこの城にどんどん人が増えていっているのがわかる。どうか何事もない様にと祈ることしか俺には出来そうになかった。
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