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06ー9

この世の財を全て放り込んだかの様に豪華な装飾に至る所で反射する細かな細工たち、会場がまるで一つの宝石の様に色とりどりに輝きその中央部では目にも鮮やかなドレスを纏った女性達が更にその輝きに磨きを掛ける。 ゆらゆらと揺れる二つの白と黒の尻尾、その後ろに待機する俺。 正直給仕服ならどうにかずっと目を離さないで居られると思ったが、それは甘い考えだった。 「ワインを頂戴」 「あそこのフルーツを取ってきて」 「やっぱりワインよりもジュースがいいわ」 こんな調子で次から次へと命じられてしまい、それに逆らう事も出来ず俺は出来るだけ速くだけど静かにそれらを遂行しながら子供たちを必死で目で追っていた。 「…あんのクソ不審者…」 雑踏に紛れて小さな声でぼやいてしまうのは絶対に悪くないと思っている。 アイツ絶対これを見越した上で俺にこの服を着せたな、と独言ながら必死で注文を捌いていけば子供たちが貴族の子供らしきヤツらに声を掛けられているのを見た。 不振に思われない様迅速に移動しながら会話に耳をそばだてると普通に話しているだけでほっとするが油断は出来ないと眉を寄せた。 そんな時だ、高い位置から会場全体に響く様な手を打つ音が聞こえたのは。 「すまない、そろそろ私も声を出しておくべきかと思ってね」 低く、威厳のある声がフロアに響く様に広がってざわめいていた貴族たちが一斉に鎮まった。 会場を見渡せる様な高さにある場所でアルとあの男によく似た人が柔らかそうな顔で微笑んでいた。 「…陛下だわ、」 「やっぱり素敵…」 隣の貴族が小さな声で呟く声を聞いてなるほどあれがアイツらの父親か、と納得する。 けれどそのそばに目を凝らしてもアイツの姿もアルの姿も見えず居ないのかな、なんて思いながらとりあえず動ける雰囲気ではないのでそのまま王様の話を聞くことにした。 言葉は理解できても意味がわからない単語が多くなり、自分の学のなさに少し虚しくなるが貴族達がまたざわめきだすと話が終わった事を察する。 「……アイツら、」 ふと周りを見ると先程まで視界に居た子供たちが居なくなっている事に気がついてさあっと血の気が引く。 これだけ音があって匂いも混ざっている場所では見つけるのが困難で、俺の額からは汗が流れた。 目立たない程度に会場中に目線を走らせて子供たちが会場の隅にある椅子で座っているのを見つけ、ほっと息を吐く。 ちゃんとお行儀良く座り不審者から言われた通り騒がずに居る子供たちがいい子過ぎて頬が緩んでしまうが、いけないと気を引き締めている時黄色い声が会場に湧いた。

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