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06ー10

「うっわぁ…」 黄色い悲鳴の中心に居た人物を視界に収めるなり乾いた笑いが溢れてしまった。 そこにはキラキラした愛想笑い全開のアルがいてそのあまりの気味悪さに耳が垂れる。 距離が遠すぎて最早金色がキラキラしているくらしかわからないが、なんというか流石時期国王だなぁと思いつつ目は無意識に見知った顔を探していた。 「…ねえ、あの方」 「……珍しいわね、滅多に社交場にいらっしゃらないのに」 アルの登場とは打って変わって辺りが水を打った様に静まり返った。 カツン、カツン、と酷くゆっくりと靴の鳴る音が聞こえて覚えのある匂いが鼻腔を擽った。 ぴくっと耳が震えて音の方へと振り返ると、そこには何時もではあり得ない程豪華に、だが洗練された服を身に纏ったアイツが居て目を丸くする。 氷の様な目の鋭さに表情の一切変わらない顔は初めて会った時を思い出させて胸を騒つかせる。けれど、不思議と怖いとは思えなかった。 「あ、王子っ」 「ばっ、イチしーーーっ!」 不気味な程静まり返ったフロアに幼い子供の声が一瞬響くのと誰かが扇を閉じる音は同時だった。 「……楽士、何をしている。はよう次の曲を」 王の隣に座る、歳を重ねてそれでも尚鮮烈な美しさを誇る婦人がつい、とその赤く彩られた目元を細めて楽団の方へと向ける。 刃の様な鋭さを持った声が整った唇から紡がれるとそれにびくっと身体を大袈裟に跳ねさせた指揮者であろう獣人が慌てて楽団に指示を出し、フロアには穏やかな曲が流れ始める。 「…さあ皆さま、今しばらくこの宴を楽しみましょう」 能面の様な無表情から一転して大輪の薔薇が綻ぶ様に鮮やかに笑って見せたその人の言葉にまた会場が華やぐ様にざわめき出す。 「……あの王子がいると美しい旋律も途端に質が悪く聞こえるな」 「ええ、本当に。ご覧になりまして?あの紫の目」 「やめておきなさい、あれと目が合うと不幸になる」 騒めきの中で耳に届く声に俺は思わず立ち止まる。 「けれど可哀想よね。アルヴァロ様はあんなにも完璧なのに、その弟があんな呪いの子だなんて」 「嗚呼、王妃様、おいたわしい…」 穏やかで優しい旋律に混ざる明らかな悪意を持って囁かれる言葉に眉を寄せる。 「第二王子はあの王子が産まれたと同時に亡くなったしな」 「本当に呪いだわ。ああ、いつまでわたくしたちは干ばつや洪水に怯えて生きなければならないのかしら」 コソコソと、小さな声が会場のあちこちで上がる。悪意と好奇心を乗せたそれは一つ一つは小さくとも集団になれば確かにアイツの耳にも届くだろう。 「…なんだ、これ」 結構ガッチガチに嫌われてるからさ、というトレイルの言葉が脳裏を過ぎる。 こんなの、嫌われるとかそんなレベルじゃないだろうと俺は呆然と立ち尽くすしかなかった。

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