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06ー15

水の中から浮上する様に意識が上っていく、さっきまであんなに真っ暗だったのに目蓋越しに感じる光に今が日が出ている時間帯だということを知る。 次に嗅覚が戻ってきて、慣れた匂いが鼻腔を擽り思わず笑ってしまう。 その匂いの強さも、音も、全てが知っているものだったから俺はきっと油断してしまったんだ。 「い"っ!、あー、ゲホ、なん…っ、いって、」 匂いの元に体を寄せようとした途端全身が硬直するほどの激痛が走って一気に意識が覚醒する代わりに痛みに悶える。 しかも暫く何も口にしていなかったらしい喉は異様に乾いていて、言葉を発した途端引きつる様な痛みを感じて咳き込むがその度に振動が傷に響いてめちゃくちゃに痛んだ。 グルル、とやけに近くで音が聞こえ呼吸が落ち着いた俺は目線だけでそっちを見る。 大きなもふもふの白い体と大きな目が心配ですと言わんばかりに俺を見ていた。ああ、白いと思ったのはコイツの色だったのかと思いながら特に驚く事もなく怪我をしていない方の手を伸ばす。 するとびくりと体を揺らしたソイツは俺の手から逃げる様にベッドから降りてしまった。 その事に目を丸くするが、何故だか苛立ちや驚きよりもショックの方が大きくて固まってしまった。 そんな俺を見て虎は慌てた様にまた寄ってくるがベッドには乗ることはせずに伸ばした俺の手に鼻先を軽く押し付ける。 かち、と爪が床に当たる音がやけに部屋に響いた事に違和感を感じた俺はソイツの鼻先を撫でながら部屋を見た。すると辺りは真っ暗で、今が昼ではなく夜であることを知って目を丸くするがそんなのもすぐに気にならなくなりまた目線を虎に戻した。 「……なあ、」 乾きすぎてガサガサの声が出てしまい、その事に耳を伏せる虎が部屋の中にある水差しに目線を向けるがその次に俺を見る。 その事にああ、と納得してしまった俺は口を開いた。 「戻っていいよ。水欲しい、」 グル、と小さく喉を鳴らしたソイツから目を逸らすと気配が変わるのがわかった。 ぺた、と素足で床を歩く音が聞こえて水をグラスに注ぐ音と衣擦れの音がしてからまた足音がして俺の側で止まる。 目線を戻すとなんだか久しぶりに感じるソイツの顔に俺は笑ってしまいそうになりながら怪我をしていない方の手を使って起き上がろうとするも出来ず、痛みに顔を歪める。 「、おい…っ!」 するとすかさずアイツの手が背中を支えてベッドに座らせてくれた。 虫の音さえ聞こえないほど静かな空間に焦りの匂いと安堵と、悲しさと、嬉しさと、そんな匂いと音が混ざった物が広がっていく。 俺にしかわからないであろう現象にくすりと笑ってしまいながらグラスに注がれた水を受け取ると喉を潤す。すとん、と胃の中にまで水が落ちてくる様な感覚に自分が暫く意識を失っていたことを理解した。 「…怪我は?」 困惑した様な空気を出すソイツのことなど構うことなく声を出す。今度は掠れてはいなかった。 「…それはこっちの台詞だ」 「腕取れたかと思ったけど、しっかりついててよかった」 辛そうに表情を歪めているのが気配でわかった。 それと同時に俺を気遣って、俺から離れようとしている事も。 「…このままでいい」 静かな部屋に声はよく響く、だからこの声はしっかり届いているだろうに更に強くなった困惑の匂いに俺は笑う。 「もう大丈夫」 怪我をしていない手を前に伸ばせば、それは月明かりに照らされた。 そこにあったのは微かにでも震えることのなくなった手で、すぐ側で息を飲むのがわかった。 大丈夫、もう一度それを声に出すと、俺の体は温もりに包まれた。

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