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06ー16
体が痛まない様にと気遣っているのがわかる柔い抱擁に安堵する。
見る限りどこにも怪我はなく、いつも通りの様子に知らない間に緊張していた体から力が抜けてそのまま体を預ける。
その事に一々僅かに肩を震わせて驚く様が面白くて仕方がないがその振動さえも痛みに繋がってしまい顔が引きつった。けれど片手を背に回す事によって離れるなという意思を見せると観念した様に息を吐いて俺の頭を撫で出した。
「…、…言葉が、出ない」
「喋りたくねえの?」
「違う。…まとまらねえんだよ、本当に」
いつの間にか手に持っていたグラスは奪われて、体を包む様にしてしっかりと大きな体が俺を抱き締める。
頭を撫でられるなんて経験が無いため少しむず痒いがまあいいかとそのままで額を胸元に押し付けた。
様々な感情が匂いと音でわかる俺にとって今コイツの全身から溢れ出る物があまりにむず痒くて、それと嬉しくて、表情がどうしてもにやけてしまうのだ。
数え切れないほどの匂いと音がして静かなはずの部屋が賑やかだと感じるほどたくさんの感情を抱えたコイツからする最も強い思いは嬉しさだった。それはどの嬉しさなのかまではわからないが、ゆらゆらと優雅に揺れる尻尾を見ても今コイツが喜んでいるのがわかった。
「……どうして城にいたとか、聞かねえの?」
「…イチとニイから聞いた。あとメルローからも」
メルロー、と言われ一瞬誰だったかなと思うがそれよりもと顔を上に上げる。
「子供たち平気?怪我とかしてねえ?」
「してない。お前を見て泣き叫んでたぐらいだ」
告げられた言葉にぐっと息が詰まり自分の耳が垂れて行くのがわかった。
「………、」
「ソルフィが着いてる、大丈夫だ。ただ怪我が治ったら覚悟しておけ。あいつら暫くお前から離れねえぞ」
微かに笑う気配がして俺もつられて笑うと小さく頷いた。泣きながら怒られてしまうんだろうなぁと思うのに、なんだか嬉しくて尻尾が揺れる。
「……お前が目を覚ましたら怒るつもりでいたのに、うまくいかねえな」
「は?なんで怒られねえといけねえんだよ」
「……ああ、そうだな。先ずは礼を言わないとな」
少しだけ身体を離されてじっと俺を見てくる。
俺の包帯が巻かれている肩を見て辛そうに表情を歪ませるソイツは、記憶にあるものよりも随分とやつれていて思わず目を瞬かせる。
その事にふ、と息を漏らすように口角を上げて微笑んだソイツの片手が俺の顔に伸びて指先で輪郭をなぞる。
それが擽ったくて肩を竦めるとすぐに痛みが走りぎゃ、と声が出る。その事に俺は笑うのにアイツは死にそうな顔をする。
痛みを感じながら一通り笑い終えた俺ははあっと息を吐いて見上げる。
そこにはなんとも言えない顔をした男がいてまた口角が上がる。
そんな俺を見てもう諦めたかのように息を吐いたソイツの唇が開き、紡がれた言葉に俺はまた笑ってしまうのだった。
「助けてくれてありがとう、ソロ」
「どういたしまして」
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