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06ー18
何を指しての愚かなのか、俺にはよくわからなかった。
ただ目の前にいる男が深く傷ついているのだけはよくわかった。
それなのに、俺はそれを慰めてやろうなんて気は面白いくらいに湧いてこなくて、代わりに重苦しい空気を払拭する様に息を吐いた。
「…俺慰め方なんて知らねえし、そんな気もないけど」
脳裏に浮かぶ笑顔はきっとしばらく忘れることは無いのだろう。
それほどまでに美しくて、怖かった。だけど同時に下らないとすら思えてしまった俺は、きっと冷たいヒトなんだろう。
「嫌いになれねえんだったら責める必要もないんじゃね。たまたま母親がちょっとおかしくて殺されかけるなんて割とよくある話だろ。捨てられねえなら、受け入れれば?」
片手で体を支えながら痛みを我慢して体を起こすとやっぱりやつれているソイツと目が合った。
「しょうがねえじゃん。お前誰も捨てられねえんだから」
「…は、」
「アルも、トレイルも、母親も、俺だって、お前が捨てようと思えば捨てられたもんばっかりだろ」
違うとばかりに反論しようとしたアイツの言葉を俺は首を振って否定する。
「捨てられたんだよ。離れようと思ったら離れられる。それを選択しなかったのはお前で、苦しい中で生きるって決めたのもお前なんだろ。…じゃあ、今更被害者ヅラすんなよ」
「、お前に、」
「何がわかるとでも言いてえの?わかんねえよ。俺お前じゃねえし。未だになんでお前が俺をあんなボロ雑巾みたいに扱ったのかも殺されかけたのかも全くわかんねえ」
一切表情を変えずに早口で捲し立てるとアイツの表情が苦しそうに歪む。
だけど、コイツは自分のやったことに対して満足な言い訳もしなければ謝罪もしない。ずっと、胸の内に秘めたまま口を開こうともしない。
そう言うところが、多分俺は一番嫌いなんだ。
「…黙ってたらわかんねえんだよ。お前、誰にも何も言わねえクセにそうやって傷つくのはズルいよ」
「……、」
今度はちゃんと手を伸ばす。
自分から口に出した言葉はいつかの自分にも言える言葉で、胸がざわつく。
やけに肌触りのいいソイツの服を掴むとまたあからさまに動揺して目を丸くするその反応は、どこかで見た事があった。
「…なあ、俺は逃げなかったぞ」
掴む手に力を込めると息を飲むのがわかった。
体に起きていた異常はすっかり形を潜めていて今も服を掴む手は震えてなんていない。
体が真っ二つに引き裂かれそうな気持ち悪さも感じなくなったし、何より俺はもうコイツの事が嫌いじゃなかった。
「…話そう、番殿」
ざあっと、強い風が吹いてカーテンをさらう。
あの日のやり直しをするべく、俺はじっとソイツを見つめた。
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