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物心ついた時から一人だった。 正確に言えば乳母だったり側仕えはいたりしたが、家族と呼べるものは側にはいなかった。 ただ幼い頃から一人だったからか、それが普通だと思っていた。 能面のように表情を変えないまま俺の側にいた奴らは、俺が一人で服を着替えられる様になった時点でみんな居なくなった。 王族に必要な教育を受けることもなく、ただ空気の様に扱われる。 俺が疎まれていると理解したのは言葉をちゃんと理解できる様になってからだった。 ヒソヒソと囁かれる悪魔や死神という言葉。文字が読める様になってからは俺のせいで国が滅びかけたことを知った。 けれど、俺にそんな力なんてない。 ただ色が違うだけなのに、それ以外は家族と同じなのに、俺は一人だった。 食事に毒が混ざることなんてしょっちゅうで、身内から危害を加えられることも多かった。 ただ、殺される様なことはなかった。きっとそれは苦しみや孤独に耐える俺を見るのが楽しかったからだろう。 幼い頃は優しかった兄も、どんどん俺を疎む様になった。 だから入れ替わる様に俺の側に来たリドリウスやソルフィが最初は信じられなかった。こいつらもあいつらの差し金だろうとすら思った。 実際はそんなことはなく、俺は穏やかな日々を過ごす事が出来ていたのに、それも呆気なく崩れ去る。 ソルフィが消え、リドリウスが狂いかけ、俺はまたひとりになった。 寂しさを紛らわせようと俺の噂を鵜呑みにしないやつらと話す様にした。仲良くなったら、そいつらは俺の側から消えていく。 それを仕組んだのが全て兄だったと知ったときの感情は、一生忘れないだろう。 それから俺は誰か特別を作るのをやめた。一人でいることを選んだ。 気が向いて拾ったトレイルは世渡りがうまかったみたいで消されることはなかったが、それでもあいつを俺の特別にはしなかった。 消されるのは、もうまっぴらだった。 なのに、神というやつはほとほと俺のことが大嫌いらしい。 獅子の国の宴での出来事を俺は生涯忘れることはないだろう。 理性も思考も根こそぎ奪う様な香りと気配。俺を見てさらに香りを強くして意識も朦朧としたまま俺に細い手を伸ばしたソイツの姿を。 残酷だと、そう思った。 狂いそうなほど本能がこいつを番にしろと叫ぶのに、俺にはそれが出来なかった。 どうしても、出来なかったんだ。

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