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07ー3
「んもぉおっ、肩やってる子抱き締めるなんてホントおばかさんなんだからぁッ!」
「おい不審者、うるせえぞ」
「だまらっしゃい狐ボーイ。ちょーーーっとヴァイスちゃんに気に入られてるからって調子に乗らない事ねっ!」
「うるせえ。お前のせいで肩ブチ抜かれたんだろうが謝れバーカ」
「イーーーヤーーーーー!!誤解も甚だしいわぁっ!ちょっと何とか言ってやってよヴァイスちゃぁんっ」
「メルロー、声のボリュームを落とせ。傷に響いたらどうする」
「あっ、そ、そんな…っ、ヴァイスちゃんが、私よりそんなちんちくりんを選ぶだなんて…っ、ムッキィイイ!」
真っ白なハンカチを咥えて悔しがるソイツを白い目で見ながら口を開く。
「コイツ、何」
「…一応この城の兵士だ。一応な」
「一応じゃなくて立派な兵士よッ!こんな鍛え抜かれたナイスバディ持ってるのどこ探したって私だけなんだから!」
「…兵士がなんで俺ら誘拐してんだよ。お前オウヒサマの仲間じゃねえの」
「はぁ?」
やたら腰をくねくねさせながら見事な肉体美を披露する視覚にも聴覚にも、おまけに嗅覚にさえ大ダメージを与えてくるソイツに俺はうんざりしながら言葉を零すが、何の気無しに呟いた言葉に一気に部屋の温度が下がった気がした。
「メルロー」
「いいえ、今のだけは聞き捨てならないわ。その誤解だけは私の兵士としての誇りにかけて払拭しなくちゃならない事なのよ、ヴァイスちゃん」
突然の威圧に耳をピンと立てた俺を守る様に不審者との間に入ったソイツの背中を見るが、短い言葉のやり取りで折れたらしく俺の前から退いた。
それにギョッとしつつずん、と迫りくる不審者に備えてぎゅっと目を閉じて身体を固くしていたがいつまで経っても痛みは来ず警戒しながら目を開けるとそこには悲痛な面持ちをした不審者と、その後ろに似たような顔をしたアイツがいた。
何故そんな顔をするのか理解出来ず首を傾げれば、今日も赤く彩られている唇から深い溜息が漏れた。
「…怪我人を、ましてや一国民を私が殴る訳無いじゃない」
そいつの口から出たとは思えない程小さく感じた声に瞬きを繰り返していればその表情は更に深くなるが、少しして息を吐いたそいつが俺を見る。
「むしろ責められるべきは私ね。…危険な目に合わせてごめんなさい。そして、殿下を守ってくれてありがとう」
床に片膝を着いて頭を下げるその姿に俺は一瞬何をされているのか理解出来ずぽかんとしていたが理解すると同時に寝かされていたベッドから上半身を勢いのままに起こす。
「いやいや何やってんだよやめ、いってぇっ!」
「ソロっ!」
「ちょっとあんた何やってんのよバカじゃないの!肩引きちぎれるわよ!」
痛みに悶えていれば慣れた様に俺の背中を支えるソイツに俺も違和感なく身体を預ければその姿を見た男の目が何とも言えない感じで細められた。
そうして膝を着くのをやめて立ち上がったそいつはベッドのそばにあった椅子に腰掛けて俺を見る。
「…パーティーで何があったか説明するわ。あなたには聞く権利があるし、何より私も身の潔白を証明したいしね」
軽く肩を竦ませて言葉を続けるそいつを見て、俺は後ろにいる男に視線を向ける。それに気がついたのか大丈夫だと言う様に頷くのを確認してから俺は派手派手しい男と向き合った。
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