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07ー9

困惑する俺を置いてけぼりにしてリドさんはそのまま地中に埋まってしまうのではないかというくらいの空気を持って頭を下げ続けていた。 俺としては何故謝られているのかが全くわからなかった為困惑のまま片手でリドさんの肩を掴んでガクガクと揺らす。 「待って、待ってリドさんなんで謝ってんの!っつーか頼むから頭上げろってあんためっちゃ偉い人じゃねえの!?」 「地位も名誉も関係あるものか。私は私が悪いと思ったからこうしてソロ君に…。嗚呼ダメだこの言い方ではまた偉そうな物言いになってしまう、どうして私というやつはこう、」 「それ以上訳わかんねえこと言ったらジイさんにチクるからな!」 噛み合っている様で噛み合わない会話を終わらせるべく出した名前はどうやら効果抜群だったらしくピタッとリドさんからの言葉は止んで恐る恐ると言った様子で俺の顔を見て来た。どこからどう見ても落ち込んでいる様に見えるその様子にまた首を傾げてしまうがとりあえず目線でソファを促す。 「座ろ、リドさん。話はそっからでもいいでしょ」 「うん、そうしよう。取り乱してすまなかったね…」 ふう、と大きく息を吐いてソファに腰掛けたリドさんはどうにも疲れた様子で、深く寄っている眉間の皺を指で解していた。 その向かいに腰掛けて以前会った頃よりもやつれた様に見える姿にやはり忙しいんだろうなと思いながらゆっくりと口を開く。 「…で、どうしたの?今めちゃくちゃ忙しいってアイツから聞いてるから俺のとこ来る余裕とか無いんじゃねえの?あと謝られる様なことされた覚えもねえよ、俺」 俺からの言葉を聞いてリドさんはすぐに言葉を返すことなく、その意味を時間をかけて理解するかの様に数度頷きまた一つ自分を落ち着かせる様に息を吐き真っ直ぐに俺に目線を向ける。 「…まず最初の質問からだね。確かに今はとてつもなく忙しい。君も知っていると思うが急にアルヴァロ様が即位してしまったからな、準備も何もなかったから城内はパニック状態だ。ここ数日はまともに眠れていないし、ソルフィのところに帰れてもいないよ」 「……お疲れ様です」 「はは、ありがとう。…それと、私が君に謝らなければいけない理由は以前君のことを理解もせずにお説教をした上、手を上げてしまった。、この前のパーティーの事件も、もっと私の目が細部にまで届いていれば起こらなかった事件だった。君には謝ることしかない…」 指を組んで目線を下に向けてポツポツと語られる言葉に俺は目を瞬かせた。 「…今の今まで忘れてた、それ」 「そうだと思ったが、どうしても謝りたかった。ソロ君には、本当に申し訳ないことを、」 「あーあーあーあー、謝んなくていいってば!俺のあれ八つ当たりみたいなもんだし、俺をゴミみたいに扱うのはあっちの国じゃ当然だし、それをしたのはリドさん達じゃないのにあの言い方は完全に八つ当たりだった。だから俺も悪い、これでこの話おしまい!」 謝られるという行為に慣れていない為に再び頭を下げようとしたリドさんの動きを声で止めさせる。 それでもどこか納得していない様子だったが俺が折れないという事も知っているからかそれ以上食い下がる事なく口を噤んでくれた。 それに安心して息を吐く。 「……で、パーティーのやつだけど、あれもリドさん悪くねえじゃん。悪いのはアイツの母親で、撃とうとした馬鹿だろ。だからこれもリドさんが謝る事じゃねえよ」 「…しかしな、」 「あー、これ以上リドさんに謝られたら肩の傷が痛んじゃうかもしれないなー」 「……君は、本当に、」 困った様に眉を下げて、とても納得した様には見えない表情に俺は面白くなって笑ってしまう。 それに更に眉を下げる様子はまるで孫に虐められているおじいちゃんだ。 「気にしなくていいんだって。むしろ俺今すげえ暇だったからリドさんに会えて嬉しいよ。あ、今日まだ時間ある?ジイさん元気?」 耳をピンと立てて矢継ぎ早に質問する俺にリドさんは目を丸くする。そして言葉の意味を理解するや否や垂れっぱなしだった耳と尻尾がピンと立ち上がり尻尾に至っては嬉しそうに揺れていた。もちろん表情も笑顔で、醸し出される香りや音も優しいものに変わっていった。 「…ソロ君の為ならいくらでも時間を作ろう。ソルフィは元気だよ、イチちゃんやニイ君も、」 「…リドリウス、てめえ何してやがる」 バタンと扉が開いて満身創痍のアイツが帰って来た。 それにリドさんはあからさまに残念そうな表情を浮かべやれやれと言った様に腰を浮かそうとしたが俺がそれを止める。 「え、待ってリドさんあいつらの話聞きたい」 「……あはは、ソロ君に言われたら仕方がないなぁ。うんうん、」 「…この糞爺…」 「ヴァイス」 額に青筋を立てるアイツを手招きすればふんと鼻を鳴らしながら隣に座る。 その様子にリドさんが目を丸くして驚いていたがすぐにその強面を驚くほど嬉しそうな笑顔で崩してうんうんと満足そうに頷いていた。

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