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07ー10

あれからリドさんにジイさんやイチやニイのこと、それと何故かあの家に泊まり込んでいるらしいトレイルの話を聞いて俺は少しだけ安心した。 ジイさんやトレイルのお陰で子供たちは以前と変わらないほど元気で過ごしていると、ただ俺に会えないのは寂しいらしく時々お城に行くと駄々を捏ねているらしい。イチだけかと思いきやニイまでそう言っているらしく、それを聞いたときは思わず嬉しさで顔がにやけてしまった。 けれどリドさんにもアイツにも怪我が治るまでは城にいろと念を押されてしまった。 わかっていたとはいえやはり少し寂しい。 「…早く帰りたいか?」 時間は過ぎてもう夜になってしまった。 暇だ暇だと思っていても時間が過ぎるのは早いもので俺とアイツはベッドで寛いでいた。アイツがベッドに横になり、俺ヘッドボードに背を預けてソイツのやけにふわふわしている耳を触ろうと挑戦中だ。 その中で問いかけられた言葉に目を瞬かせソイツを見れば俺は迷いもなく頷いた。 「当たり前だろ」 「…そうか」 「パーティーするって約束してんだよ。お前もトレイルも呼んでいつもの菓子屋でケーキとかクッキーとかめちゃくちゃ買って、家ん中飾り付けして子供たちもドレスアップすんの。んで、みんなで楽しむ」 心なしか元気のなくなってしまった様子に苦笑しながら言葉を紡いでいけばアイツの目が丸くなる。だが嬉しいのだろう、白くてふわふわした尻尾がゆらゆらと揺れていて俺は笑ってしまう。 「それに冬に祭りがあるんだろ?それもみんなで行くって約束してんだよ。だから帰らねえと」 「…その後も、お前はずっとあの家にいるのか?」 たった今まで楽しそうに揺れていた尻尾がまたぺたりとシーツに張り付いてしまった。 すん、と鼻をならすと寂しそうな匂いと諦めの匂いが混ざったものが鼻腔を擽り俺は息を吐くがどういえばいいか分からず口を噤んでしまう。 そんな俺を見てどこか悲しそうに笑うソイツを見て、少し苛っとしてしまうがその苛つきもソイツが俺の腰に腕を回して抱きついて来た事で一気に吹っ飛んでしまった。 「お、おい…っ」 「…側にいて欲しい」 掠れた声で告げられた言葉にドクンと心臓が鳴った。 全身が発火しそうなほど熱くなって顔面に熱が集中していくのがわかり急激に喉が渇き出す。今までではあり得なかった自分の体の現象に混乱していれば俺の熱に気がついたのかアイツの目線が俺に向く。 「み、見んな馬鹿!」 慌てて顔を隠そうと片手を挙げようとするがそれを阻止する様に手首を掴まれてしまい隠す事もできなくなり更に顔に熱が集中するのがわかった。 今ほど片手しか動かないことを憎んだことはない。 「離せってば、…なあ、おい聞いてんのかばか!」 手首を掴んだまま腰に回した腕を解いて体を起こしたソイツは俺の言葉を聞く事もせず、徐に片腕だけで俺をひょいと持ち上げ自分の足の上に向かい合う様に乗せた。 更に近づいてしまった距離に今度こそ発火すると思ったが、間近で見たソイツがあんまりに嬉しそうに笑うから、俺は喉まで出かかっていた罵詈雑言をひゅっと飲み込んだ。

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