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07ー11
ぐる、と喉を鳴らして顔を近づけて来る。
逃げようにも背中に腕が回り逃げられずそのままぎゅうっと目を閉じれば鼻先に何かが触れた。
「…?」
不思議に思い恐る恐る目を開ければそこにはとんでもなく綺麗な男の顔があったが近過ぎるせいでピントが合わず少しだけほっとした自分がいるが、それでも今の状況に心臓は煩いほど脈打っていた。
すり、と鼻先を擦り合わせいつの間にか手首を掴んでいた腕が離れていて、今度はその手で頰を撫でられた。
手入れの行き届いた心地のいい手が顔の輪郭をなぞり首筋を伝って頸へと移動する。
「…っ、」
無意識に身体が震えて息が詰まるが走った感覚は嫌悪のそれとは違っていた。
けれど体はどうしようもなく緊張して唇からは吐かれた息は震え、目線はあてもなく彷徨う。
「…大丈夫だ。噛まねえよ」
こつん、と額が触れ合い囁くような声音で告げられた言葉に目を丸くする。
身体を支配する熱が一瞬で消え去るような感覚に首を振ろうとしたら優しく光る紫と目が合った。
「お前の許しがない限り噛まない」
「…え、」
柔らかく目を細め、指先は相変わらず俺の頸をなぞる。
「本当は今すぐにでも噛みたい。お前を正式な俺の番にしたいが、俺の意思だけでしたら何また拗れる」
頸から手が離れ、近過ぎる距離もほんの少しだけ離れた。
漸くしっかりと顔が見れたが、茹だって混乱した頭ではうまく理解出来ず眉を寄せてしまう。
それにクスリと見たことがない甘ったるい笑みを浮かべたそいつは指の背で俺の頰を撫でた。
「…諦める訳でも、手を離す訳でもない。ただ、お前に選んで欲しい」
「…俺に?」
「ああ。…お前は流されやすいきらいがあるからな」
ニヤリと意地悪気に笑って出た言葉に目を丸くするが意味を理解するや否や俺は眉を寄せて目の前の男を睨むが思い当たる節があり過ぎて口を噤むしかなかった。
「…運命や情に流されず、お前の意思で俺の側に来て欲しい」
「…来なかったら、どうすんだよ」
「俺を選ぶまで気長にやる」
「……すげえ、時間掛かるかも、」
「どれだけでも待つ」
迷わずに告げられる言葉にきゅうっと胸が痛くなった。
「……この前まで、捨てようとしてたくせに」
「あれは悪かった。諦め癖がついてるんだ、俺は」
それなのに、諦めずに俺を待つというそいつにやはり胸が痛くなる程締め付けられた。
く、と背中に回った腕に力が込められて柔らかな温かさに包まれ俺は緊張よりも先に安心感を得てしまう。
抗えない心地よさに尻尾が揺れてシーツに当たるたび乾いた音が鳴る。
「…ソロ、」
頰にあった指が顎に添えられて軽く上を向かされた。囁かれる様に告げられた言葉に泣きそうになりながら、気が付けば引き合う様に唇が重なり合っていた。
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