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08ー6
抱き締めた途端また強張った体に胸が痛くなる。
強くなる匂いは謝っていると思うほどに悲しみの匂いを強くした。
「ニイ、ニイ、俺の声聞こえるか?」
腕の中で引きつる様な声を上げながら泣くニイは自分の耳を両手で強く押さえていた。
拒否感が強くなるほど異能も強まっているのだろう些細な音でさえ拒絶する様に首を振る姿に胸が締め付けられる様に痛んだ。しゃくり上げる様に泣きながら嫌だと繰り返す姿は痛々しいという言葉以外では表せられず表情が歪む。
「…ニイ、」
抱きしめる腕を解いて、その代わり両手でニイの顔を包んで額を合わせた。
「ニイ、目開けられるか?」
出来るだけ柔らかく、ゆっくりと言葉を紡ぐと徐々にニイの体から力が抜けて涙に濡れた瞳が現れて俺は笑みを浮かべる。
見えやすい様にと額を離すと俺はゆっくりと口を動かした。
「……これなら、痛くないか?」
俺の口の動きに合わせてニイの震える小さな声が届く。ちゃんと意味が伝わっている事に安堵の息を吐きながら頷いて見せた後に首を傾げるとニイもおずおずと頷いて見せた。
「痛く、ない」
敏感になりすぎた感覚では声ですら痛みに変わるのだろう。心なしか和らいだ匂いに内心ほっとしながら涙でぼろぼろになった顔を服の袖で拭った。
「…なんで、いたがってるってわかったんだよ」
相変わらず両手で耳を押さえたままの問いかけに俺は自分の鼻と耳を指差した後に口を開く。
「……俺と、同じ?、ソロも声聞こえんのっ?」
ぱっと表情を明るくした後に身を乗り出す様にして問いかけられた言葉に俺は首を横に振った。それに眉を下げて落ち込む姿に眉を下げて笑って見せればニイも首を横に振った。
「、…俺のは感情がわかるくらいだな」
目線を下げてしまったニイからまた悲しみの匂い強くなった。小さく深呼吸してゆっくりと声を出すと一瞬体を強張らせたがどうやらもう痛みは感じないのか安心した様に息を吐いて俺を見る。
「…感情?」
「そう。だからお前が辛いのもすげえわかるよ、匂いと音で」
音と匂いで伝わる感情は普通の会話で伝わるそれよりも随分と剥き出しだ。痛みも、喜びも、オブラートに包まれていない分そのイメージは強烈だったりするが、ニイの感情は胸が張り裂けそうなほどに痛いと感じた。
「…こんな辛い感情、ずっと我慢してたのか。…気付いてやれなくてごめん、もっと早く帰ってくるべきだった」
血が滲む様な匂いは、ニイの感情だ。今まで我慢してきた者が少しずつ溢れて来ているのか、徐々に匂いは濃くなっていく。唇をギュッと噛んで我慢する体を再び抱き締めると今度はその頼りない小さな腕が背中にしっかりと回って服をキツく握り締めた。
「、お、オレのせいで、ソロ、怪我…っ」
「違う。あれはお前のせいじゃない、それは、それだけは絶対に違う」
「…っ、もっと、もっと、早く、わかってたら、」
「ニイが教えてくれたから、ヴァイスは生きてる。俺がこうして生きてるのもお前のおかげ。ニイは俺たちを助けてくれたんだぞ?」
しゃくり上げる様に泣き出したニイの背中を撫でながら俺は小さな体を抱き締める。
「…助けてくれてありがとう。ニイがどう思ってても、お前は俺たちのヒーローだよ」
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