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08ー7

キシ、とベッドが沈むのがわかった。 誰かが体重を掛けているのだろうが、それだけでは目を覚ますまでには至らなくて俺は心地よい暖かさと眠気の中で喉を鳴らす。 それに笑う気配がしたと思えばよく手入れされた指が俺の顔に掛かる髪を払って指の背で頬を撫でる。 よく知っている触れ方と優しい匂いに俺は更に深い眠りにつこうとすればそんなのもわかったのか俺の頬を撫でているソイツは低い声で俺の名前を呼ぶ。 気の抜けた声で返事をするが覚醒までは至らず心地の良い微睡の中を彷徨っていれば匂いが少しだけ強くなった。 ふわりと、頰に指とは違うものが触れる。 これがソイツの綺麗な髪だと言うことも分かったが、それでも俺は目を覚さない。 それに漸く違和感を感じたらしいソイツが眉を寄せるのが気配で分かった。ソロ、と直ぐ近くで声が聞こえたと同時にもぞりと動く。 「…オレいるんだけど」 布団の中に潜り込み俺が抱き締めて寝ていたニイがぴょこっと顔を出す。 ものすごく気まずそうにだけどどこかしたり顔でベッドから出てきたニイを見てヴァイスは驚いたらしくそんな匂いをさせて固まっていた。 それが面白くて目を閉じたまま肩を震わせて笑っていれば目を細めたソイツがぐっと布団を掴んでベリッと引き剥がした。 「王子様ーっ!!」 「は、」 寒さに震えるまでもなくベッドの中で黒猫になっていたイチが一瞬でヒトの姿に戻りヴァイスに飛びついた。 突然の事に理解が追いつかず、けれどしっかりとイチを受け止めてから床に倒れ込んだ姿に俺は朝から声を出して笑う。 昨日あれから泣き疲れて寝てしまったニイをベッドに寝かせるとイチも来て、それから何やかんやあり一緒に寝る事にしたのだ。 愉快な気持ちのまま起き上がりベッドの上であぐらをかいて頬杖をつけばニイはベッドから降りて未だに目を瞬かせているヴァイスを見下ろしていた。 「大丈夫かよ、王子様」 「…大丈夫だ」 「ふふーん、私まで居るって思わなかったでしょー?」 黒い尻尾を得意げに揺らしながらヴァイスの上から退いたイチは両手を腰に当てて胸を張った。 「オレが居たのにも気が付いてなかったんだから当然だろ」 呆れた様に息を吐きながらイチを見るニイも虎を騙せた事にどこかご満悦だ。そこに昨日までの悲壮はなくて俺は静かに安堵する。 「…お前ら、獣化出来たのか」 床から上半身だけ起こしたヴァイスが呆然とした顔で呟いた言葉に双子は顔を見合わせてそして同時に笑った。 「せーの、」 その声が被ったと思えば目の前には黒猫と白猫がちょこんと床に座りにゃあ、と鳴いていた。 その可愛さに俺は悶え、ヴァイスは片手で顔を覆って天井を仰いだ。 「君たち何やってんの…?」 その奇妙な光景はトレイルが部屋に現れるまで続いた。

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