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08ー9

窓の外は白く染まっていた。 踝くらいにまで雪が積もって家の扉全てを閉め切って、暖炉に火を入れていてもそれでも冷気が入り込む。 普段なら寒すぎて毛布と共に行動をしてしまうが、今日はそんな必要もない。 テーブル一杯に並べられたお菓子と料理、柔らかく揺れている暖炉の火と木の爆ぜる音すら聞こえない賑やかな時間。 部屋中にかけられた布にはジイさんお手製の装飾がなされていて、ランプの明かりも揺れる中で可愛くドレスアップした子供たちが手を取り合って踊っている。 きゃっきゃとはしゃぐ声と、初めてのダンスに唸る声。この空間をさらにパーティーっぽく仕上げているのは城から持ってきたらしい楽器を弾くトレイルだ。 そんな事もできたのかと目を瞬かせていれば得意げな顔でウィンクをされた。 「アイツできない事あんの」 「大抵のことはできるんじゃねえか、器用だからな」 部屋の中は豪華に装飾されたのに椅子だけはいつもと同じでなんだか安心する。 いつもとは違う、なんだかやけに肌触りの良い服や装飾された髪に違和感を感じて耳が動くがそんな俺を見てアイツが笑う。 「…笑うほどおかしいかよ」 「違う、逆だ」 子供の分だけでいいと言ってあったのになぜか俺の分の服まで持ってきており、嫌がる俺を他所にとてもいい笑顔でなぜかメルローが着替えさせた。 色々な支度も終わってさあパーティーだという時になぜかあの不審者が声高にやってきたのだ。俺たちをめかしつけたら高笑いしながら去っていったが。 「…そういう格好も似合うな」 「見慣れねえだけだろ」 基本服なんて着れたらいいと思っている俺からすればメルローが寄越した服はあんまりにも動きづらかった。 白とポイントで紫があしらわれている、やけにキラキラしたこれ一体いくらしたんだと思いたくなるようなそんな服だ。 汚すわけにもいかず、俺は御馳走を目の前にしていまだに一口も食べれていなかった。 「お前は本当に素直じゃねえな。ほら、肉だ」 「バッ!!おまえ、ふざけんな汚れたらどうすんだよ!」 「新しいの買えばいいだろうが」 「かーっ、これだから王子様は!いいか、この服ひとつで多分一年は余裕で暮らせんだからな!?」 「言い過ぎだろ」 なんの遠慮もなくフォークに突き刺した肉を口元に持ってこられた瞬間俺は椅子から飛び退いていた。 その音に演奏の手が止まりみんながこちらを見るがそんなことに構ってられない。うまそうな料理を前に腹の虫を鳴かせつつそれでも食べない俺とフォーク片手に首を傾げるヴァイスの姿に子供たちは首を傾げ、トレイルとジイさんはやれやれと息を吐いていた。 「お前が食わねえからこうやって俺が手ずから食わせてやろうとしてるんじゃねえか」 「頼んでねえ!」 「っは、いいのか?これは料理長に言って仕込ませた最高級の肉だぞ」 「クッソ…!」 側から見れば下らないのだろうが、俺からしてみれば大問題だ。 「お前らすげえ仲良くなったな」 「ほんとだねぇ。にこにこしちゃうねえ?」 ぎゃあぎゃあと言い争う俺とヴァイスを見ながら子供たちがどこか嬉しそうに言葉を紡ぐ。 ニイはなんだか複雑そうだが、それでも尻尾はご機嫌に揺れていて、そんな子供たちを見てトレイルとジイさんも思わず笑ってしまう。 俺とアイツの不毛な言い争いは俺の口に肉が突っ込まれた事によって終戦を迎えた。 この世で一番うまい肉だった。

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