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08ー10
楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、外は真っ暗になり月が辺りを照らしていた。
テーブルに広げられた料理ももう片付けられて残ったものは明日の朝食やおやつになりそうだ。子供たちもはしゃぎ疲れたらしく少し前に眠ってしまった。
「じゃ、ボクはソルフィ様をリドリウス様のとこ送ってそのまんま城に戻っちゃうねー。ヴァイス、明日の仕事までには帰ってくるんだよ!」
「おー」
「は、」
「ソロと子供たちを頼みましたよ、殿下」
「はあ?」
風呂上がりにタオルで濡れた髪をがしがしと拭いている時に聞こえた会話に目を丸くする。
慌てて玄関に向かって真偽を問おうとするが俺が顔を覗かせたと同時に玄関の扉は閉まってしまい、振り返ったヴァイスと目が合えばソイツは呆れたように息を吐いて俺に近づくと軽々と俺を抱き上げて歩き出す。
「ぅおっ!ちょ、おま、待てっ」
「寒がりのくせにそんな薄着で出歩くんじゃねえ」
「風呂上がりは暑いんだよ、じゃなくてっ」
暖炉の前に連れて行かれて胡座をかいたヴァイスの膝の上に座らされるそのまま腕を解いたかと思えば俺の頭に乗ったタオルを持ち髪を拭き出した事に俺は開きかけた口を閉じた。
「…今日は元々泊まる気だった。言ってなかったか?」
「聞いてねえよ」
「じゃあ今言った」
「屁理屈っていうんだぞ、それ」
俺が自分でやるときとは全く違う優しい手つきで髪を拭かれるのはどうも落ち着かない。
ヴァイスの絹糸のような髪とは全く違う、軋んで手触りの悪い髪だ。
「…そんな丁寧に拭かなくてもいいって」
「毛並みくらい整えろ」
片腕が全く動かせなかった時もコイツはよく俺の髪を拭いてくれていた。
だからこんなやりとりももう数え切れないくらいしている。
本当に、変わったなと思いながら小さく揺れる暖炉の火を眺めていれば時折ぱち、と気の爆ぜる音が静まり返った部屋に響いた。
窓は外と中の温度差で曇ってしまっていて、そこから外の様子を伺う事は出来ない。
けれど家の中にいても分かるほど外も静寂に包まれていた。
「…雪ってさ、」
白く曇って見えないのに、何故か外は雪が降っていると思った。
「お前の髪みたいだよな」
日の光ではなく、月の光に反射して薄青く銀色に輝くそれはきっとこいつの髪と同じな気がする。
尻尾とは違って少し硬さがある綺麗な長い髪に触れたいと思うが今の体勢だと厳しくて諦めた。
「あ、じゃあ冬はお前の色だなー。白くてさ、綺麗だし」
煌めくような白銀の髪と褐色の肌はきっと雪景色に映えるのだろう。
想像するだけでただでさえ神々しいとすら思える美貌がその景色の中だと一層神聖なものに感じるのだろうなと一人で納得して満足げに頷く。イチ辺りはそんな光景を見たら顔を真っ赤にして喜びそうだと口元を緩めていれば後ろから抱きしめるように腕が回ってきた。
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